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2. 光を利用した革新的コンピューティング技術
小特集 2-2
線形光学を用いた量子計算
Quantum Computation Using Linear Optics
abstract
線形光学量子計算は,線形光学素子に単一光子源や光子検出器を組み合わせて行う量子計算方式である.そのデバイス技術は近年大幅な発展を遂げている.また少ない数の光子で大規模な計算を行うことのできる方式が提案され,その応用も次々と提案されている.本稿では,線形光学を用いた量子計算の基本的な考え方について,論理回路の実現方法や最近の量子計算方式を解説しつつ紹介する.次にそれらの実装方法について筆者らの実験を例に解説する.
キーワード:量子計算,線形光学,光導波路
量子情報処理は,量子力学の性質を適用することで従来の枠組みを超えた情報通信を実現する情報処理技術である.これまで,特定の難しい問題について高速に計算することのできるアルゴリズムや,原理的に盗聴を検知可能な暗号通信などに代表されるような,計算,通信,計測を含む幅広い分野における様々な応用の存在が明らかになっている(1).そして,その実現に向け,量子的な物理系を巧みに操作する技術の開発(2)が世界中で精力的になされている.
このような量子情報処理のための基本単位である量子ビット(用語)などの量子状態を実現する物理系には様々な候補がある.中でも光波長領域の光子は環境との相互作用が極めて小さいため,その偏光や経路などに符号化された量子状態は壊れにくい.またそのような量子状態は,ビームスプリッタや波長板,位相シフタなどの市販の線形光学素子を用いて操作することができる.これらの利点のため,光子を用いた量子情報処理の研究が盛んに行われている.一方,後述するように単一光子によって誘起される非線形性が極めて小さいことや,多数の単一光子を同時に高い効率で発生することが難しいといった欠点がある.しかしこれらの欠点は理論や実験技術の進歩により徐々に取り払われつつある.また,量子化学計算や創薬,種々のグラフ問題に関する新奇かつ有用な応用が次々に提案されている.
光量子情報実験系の概念を図1に示す.その構成要素は,単一光子や量子もつれ光子等を発生させる量子光源,それら光子の量子状態を操作する光干渉計等によって構成される線形光学回路,そして光子検出器である.筆者らは,大規模かつ高度な量子情報システム実現のために,これらの要素をシリコン基板上に集積する研究を行ってきた(3)~(8).
本稿では,この中で特に回路部に焦点を当てる.はじめに線形光学を用いた量子計算の基本的な考え方について,量子論理ゲートの実現方法や最近の量子計算方式を解説しつつ紹介する.次いで,筆者らが実現した万能回路であるユニバーサル線形光学回路(ULO: Universal Linear Optics)(用語)を用いたそれらの方式の実装実験(5)について紹介する.
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