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2.光を利用した革新的コンピューティング技術
小特集 2-3
縮退パラメトリック発振器ネットワークを用いたイジングモデルの基底状態探索
Ground-state-search of Ising Model Using Network of Degenerate Optical Parametric Oscillators
abstract
組合せ最適化問題を相互作用するスピン群の理論モデルであるイジングモデルの基底状態探索問題に変換し,スピンを模した物理システムを用いてこれを実験により解く「イジング形計算機」の研究が近年盛んになっている.本稿では,相互結合した縮退光パラメトリック発振器パルス群を用いてイジングモデルを表現し,その基底状態の高速な探索を行うコヒーレントイジングマシンについて,その原理と最近の評価実験について述べる.
キーワード:コヒーレントイジングマシン,位相感応増幅,イジングモデル,組合せ最適化問題
ムーアの法則の飽和が明らかになってきた現在,物理現象を用いて,従来のディジタル計算機が不得手とする問題を効率良く解く計算機を実現するための研究が活発化している.特にGoogleやIBMなどの巨大企業が開発を推進する量子コンピュータ(QC)の進展は目覚ましい(1),(2).近年の超伝導素子を用いたQCのビット(量子ビット)数は飛躍的に増大しており,近い将来QCにより素因数分解などの高速な解探索が可能となることで,これらの数学的問題の困難性が安全性の源となっている現代暗号が解読可能となってしまうリスクが真剣に検討されるようになってきた.また,30年ほど前にブームを巻き起こした光コンピュータもニューラルネットワーク(NN)の復権とともに息を吹き返し,今後NNの低消費電力化に寄与することが期待されている(3).そんな中,東工大の西森らが提案した量子アニーリング(QA)(4)を超伝導量子ビットを用いて実装したカナダのD-Wave社のシステムは,組合せ最適化問題を解く量子マシンとして大きな注目を集めている(5).
組合せ最適化問題は,多数の選択肢の中からその最適な組合せを見つける問題で,選択肢の数が増大すると組合せ数が爆発的に増大するため,従来のディジタル計算機が比較的不得手とする問題として知られている.その一方,組合せ最適化問題は,近年更に複雑化し,ネットワーク化する現代社会において様々なところで出くわす重要な問題である.宅急便のトラックの最適経路の探索,通信ネットワークのリソースの最適制御,創薬における候補物質の探索…,これらは全て組合せ最適化問題である.これらを全て効率良く解くことのできる計算機が実現できれば,社会に大きなメリットをもたらすことが期待される.
本稿では,筆者らが研究している組合せ最適化問題を高速に解く新しい計算機,「コヒーレントイジングマシン(CIM)」(6),(7)について解説する.D-WaveのQA装置(以下D-Wave QA)と異なり,CIMの基本素子は縮退光パラメトリック発振器(DOPO)と呼ばれる光発振器である.相互の光注入によりネットワーク化された光発振器群における相転移現象を用いて組合せ最適化問題を高速に解く計算機,それがCIMである.
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