解説 VRの進化を担う3D音響技術――ヘッドホン3D音響の原理と到達点――

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解説

VRの進化を担う3D音響技術

――ヘッドホン3D音響の原理と到達点――

Three-dimensional Sound Technologies Play a Role in Evolution of Virtual Reality: Principle and State-of-the-art of Headphone Three-dimensional Sound

飯田一博

飯田一博 正員 千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科

Kazuhiro IIDA, Member (Faculty of Advanced Engineering, Chiba Institute of Technology, Narashino-shi, 275-0016 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.4 pp.413-420 2020年4月

©電子情報通信学会2020

abstract

 音響分野において360度映像に相当するものとして,3D音響の研究が進められている.しかし,現時点では個人が手軽に3D音響を楽しめるようなシステムは実用化されていない.本稿では,種々の3D音響の原理を紹介した後,HMDを用いた360度映像と親和性が高いバイノーラル再生に焦点を当てて解説する.バイノーラル再生においては,頭部伝達関数(HRTF)の個人差が最大の課題であり,これを克服するために盛んに研究が進められている.これらの研究の到達点を紹介し,実用化に向けた今後の展望を述べる.

キーワード:VR,3D音響,ヘッドホン,頭部伝達関数,個人差

1.はじめに
――VRと3D音響再生――

 近年,VR技術の進展が目覚ましい.映像分野においては,ドームシアターのような大規模な施設だけではなく,全天球カメラやHMDを用いて個人が手軽に360度映像を体験できるようになってきた.

 音響分野において360度映像に相当するものは3D音響と呼ばれている.ここで,3D音響とは「実在あるいは架空の音空間(原音場)において知覚される音像を,『三次元的な音感覚(方向,距離,広がりなど)』も含めて,時間と空間を超えて再現・生成できる」音響と定義する.

 多数のスピーカを用いた映画館などの商業施設は増加しているものの,個人で手軽に3D音響を楽しめるようなシステムは実用化されていないのが現状である.ヘッドホンを用いた3D音響システムが実用化されれば,HMDによる360度映像との組合せにより総合的なVRのクオリティは飛躍的に向上するだろう.その実現を目指して世界中で盛んに研究開発が進められている.

 本稿では,3D音響の現在の到達点と,実用化に向けた今後の展望をまとめる.

2.音源から鼓膜までの音の伝達経路

 まず,ある音場で音源から発せられた音波が聴取者の鼓膜に届くまでの経路を考えてみよう(図1,2).

図1 音源から受聴者の鼓膜までの音波の伝達経路


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