特集 2-1 コンピュータハードウェアの歴史と技術動向

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.103 No.5 (2020/5) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


特集 2-1 コンピュータハードウェアの歴史と技術動向

片桐孝洋 名古屋大学情報基盤センター大規模計算支援環境研究部門

Takahiro KATAGIRI, Nonmember (Information Technology Center, Nagoya University, Nagoya-shi, 464-8601 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.5 pp.468-475 2020年5月

©電子情報通信学会2020

abstract

 昨今のAI技術の進展は,コンピュータハードウェアの関連技術の発展と密接に関係している.本稿では,現在普及しているコンピュータにおける演算の高速化に興味がある読者に対し,コンピュータの歴史を示すとともに,AIに必要な演算の観点から,コンピュータハードウェアの技術動向について俯瞰的に述べる.基盤技術開発時の技術と最新技術の双方を示すことで,コンピュータハードウェアの側面から見た演算性能の高速化の技術進展を解説する.

キーワード:コンピュータハードウェアの歴史,並列コンピュータ,第5世代コンピュータ,GPGPU

1.コンピュータの誕生
――真空管から集積回路まで――

 コンピュータの世代分けに関し,電子デバイスの違いを基に世代分けすることがある(1).まず,真空管を利用したコンピュータを第1世代と呼ぶ.トランジスタを利用したコンピュータは第2世代である.集積回路を利用するコンピュータは第3世代である.大規模集積回路を利用したコンピュータが第4世代と呼ばれる.この章では誌面の都合上,網羅的にコンピュータ開発の歴史を紹介するのではなく,現在のコンピュータの基盤となる技術を筆者の主観から限定して紹介する.

 第1世代で著名なものに,1946年にJ. Presper EckertとJohn W. Mauchlyがペンシルバニア大学で開発した,ENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)がある.ENIACは真空管1万8,000本を使ったコンピュータであり,動作周波数は100kHzと言われている(1).ENIACのプログラムは演算器などを人手で結線する方式であり,現在のプログラミングからすると想像もつかない環境だろう.一方,1945年,John von NeumannによるEDVAC(Electronic Discrete Variable Automatic Computer)プロジェクトの中で,プログラム内蔵方式(用語)が提案され,現在のコンピュータの原形となるノイマン形コンピュータが提案された(1).このノイマン形コンピュータにより,マシン語の並びとデータを高速にメモリに収納することが可能となり,初めてコンピュータが多様な処理に適用できるようになった.

 第2世代に進むと,商用コンピュータが開発されるようになる.1958年,Philco社は最初のトランジスタコンピュータTransacS-2000を開発し,一方,IBMは事務用コンピュータIBM 7070を開発した(1).この世代では,コンピュータの重要な機能が多数開発されている(1).1958年,Honeywell社が開発したH-800システムで,複数のプログラムが同時に実行できるように見せる多重プログラミングを実用化した.多重プログラミングにより,複数のプロセスを同時に実行することができた.このことで,大規模なI/O処理,例えば現在のコンピュータに置き換えるとファイルシステムからのデータの入出力に相当する処理で時間を費やす場合,他ユーザのプログラム実行に切り換えることで,コンピュータが実行する単位時間当りの処理を高めることができた.また1959年には,Electrologica社が開発したX-1システムで,ハードウェア割込み方式を実現した(1).この割込み方式により,優先度の高い処理を適切に処理可能となる.そのため,先ほどの多重プログラミングが容易に実装できるほか,ユーザの要求に応じて行う対話処理を実現できた.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。