解説 新材料探索におけるAIとデータの活用

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 解説 

新材料探索におけるAIとデータの活用

Material Discovery Driven by AI and Data

武田征士 濱 利行 徐 祥瀚 山根敏志 中野大樹

武田征士 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

濱 利行 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

徐 祥瀚 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

山根敏志 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

中野大樹 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

Seiji TAKEDA, Toshiyuki HAMA, Hsiang Han HSU, Toshiyuki YAMANE, and Daiju NAKANO, Nonmembers (IBM Research-Tokyo, IBM Japan, Kawasaki-shi, 212-0032 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.6 pp.621-628 2020年6月

©電子情報通信学会2020

A bstract

 多様な材料データを基に高速かつ柔軟な材料設計(新材料探索)を実現すべく,電子部品材料や医薬品など様々な材料開発へAIを初めとするデータサイエンス技術の導入が急速に進んでいる.本稿の前半では,材料科学とデータサイエンスの融合領域であるマテリアルズインフォマティクスにおけるAI導入の現状を広く紹介する.また後半では,本分野において特に重要な技術である分子構造の自動設計,すなわち所望の特性を持ち得る分子構造をAIにより高速かつ幅広く設計する技術の手法と応用について,我々の取組みを中心に詳しく説明する.

キーワード:AI,機械学習,マテリアルズインフォマティクス,ケモインフォマティクス,分子設計

1.背     景

 あらゆる産業は,新材料の発見によってもたらされる非連続な飛躍を繰り返しながら発展してきた.例えば導電性ポリマーの発明によりタッチパネルディスプレイという技術がもたらされたように,新材料は工業製品の性能自体を大きく押し上げるのみならず,時に製品設計の指針を根底から覆し,それによって新しい技術分野を切り開くことすらある.このような新材料の持つ潜在力は近年特に注目されており,2016年には130兆円であった市場規模が,2024年には200兆円に達するという報告もある(1).また,材料科学を遺伝子編集技術や量子・神経型コンピューティングと並ぶ,次世代の3大技術とする報告もあり(2),今後ますます成長が加速する分野である.

 期待の高まる一方で,今日の材料開発は,分野ごとの専門家個人の知識や経験を基にした実験や計算の試行錯誤を繰り返すことで成り立っている.個人が参照し得る知識の量と種類は限られているため,材料開発はスピードと多様性の点においてまだ大きな成長の余地を残している.まず,新材料の開発には一般に10年から20年もの期間が必要とされている.また,未知の材料の種類は低分子に限定しても1060種類をはるかに上回る材料が存在すると概算される一方で(3),専門家の発明や発見によってこれまでに得られた既知の材料の種類は高々109種類程度にすぎない.

 このように,人間の能力により制約を受けてきた開発スピードを加速し,かつ材料設計の発想の自由度を拡大するために,実験,理論,計算に次ぐ「第4の科学」と称され近年成長の著しいデータサイエンス,すなわち機械学習や統計解析を材料分野に積極的に導入することが国を挙げて開始された.250億円以上の予算を投入してムーブメントの口火を切った米国のMaterials Genome Initiative(2011年)に続き,欧州のNOMAD,韓国のCreative Materials Discovery Project,中国のMaterials Genome Initiative Center,国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)のコンソーシアムMI2I(いずれも2015年)などが挙げられる.また,こうした時代の潮流を受けて数多くの材料開発のベンチャー企業が続々と誕生し,本稿執筆時点でその数約150社,資金調達総額は約2,500億円と見積もられている(4).このような材料開発へ向けたデータサイエンス導入の動きは,一般にAIを活用した材料開発と呼ばれ,今後ますますの加速が見込まれる.

2.AIを活用した新材料探索の現状

2.1 AI材料探索の基本


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