名誉員推薦

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Vol.103 No.7 (2020/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

大石進一

大 石 進 一

推 薦 の 辞

 大石進一君は,1976年に早稲田大学理工学部電子通信学科を卒業,1981年に同大学院博士後期課程(電気工学専攻電子通信分野)を修了されました.1980年4月に早稲田大学理工学部助手に就かれ,1982年4月に専任講師,1984年4月に助教授,1989年4月に教授に昇任されました.現在,同大学理工学術院応用数理学科に所属しておられます.

 博士論文ではソリトンの一般解が双線形形式を通してフレッドホルム行列式で表現できることを示され,ソリトン系の非線形フーリエ解析手法を開発されました.学位取得後はホモトピー法による非線形方程式の解法,特に無限次元方程式に対するホモトピー法を開発されました.そして,このような計算機援用解析を発展させる形で1990年からは一貫して精度保証付数値計算の研究に従事されました.無限次元ニュートン法の収束定理を利用した精度保証付数値計算による微分方程式の解の存在証明法を発展させられました.また,精度保証付数値計算を数値計算の基本的な考え方とするように数値計算の体系を構築することを30年の歳月をかけて遂行され,例えば,多くの線形問題に対しては近似計算の数倍の手間で,数学的正しさが保証された数値解が得られることを示されました.その過程で,問題の難しさに応じて高速かつ適応的に精度を高めることのできる無誤差変換法を開発されました.また,このように発展した精度保証付数値計算法により,非線形常微分方程式,非線形遅延微分方程式,非線形偏微分方程式の計算機援用解析法を発展させられ,理工学に現れる様々な非線形方程式の計算機援用解析法を開発されました.また,精度保証付計算幾何学アルゴリズムの開発など計算工学の発展にも大きく寄与しておられます.純数数学の分野でも三次元多様体の分類問題の双曲型判定アルゴリズムは同君らによるものが現在よく用いられています.このように,精度保証付数値計算学の確立に同君は大きな貢献をなされています.

 これらの業績に対して,同君には本会から論文賞(最優秀論文賞の前身である猪瀬賞1回を含む4回),業績賞,功績賞が授与されました.フェローにも任じられています.日本応用数理学会からは論文賞,ベストオーサー賞,業績賞が授与されています.その他の団体からは大川出版賞,船井情報科学振興賞,電気通信財団テレコムシステム技術賞,丹羽記念賞が授与されています.早稲田大学からは小野梓賞,大隈褒賞が授与されています.また,同君は,科学技術分野における文部科学大臣表彰(研究部門)を受賞,紫綬褒章を受章されています.本会においては,副会長,和文論文誌A編集委員長,基礎・境界ソサイエティ会長,企画理事などを歴任されました.この間,NOLTA,IEICE論文誌を立ち上げ初代編集長を務められ,NOLTAソサイエティの立ち上げに大きな貢献をされています.

 早稲田大学の研究室における教育活動では20名以上の博士を含む400名を超える学部・大学院生を指導され,多くの後進の育成に寄与されました.「フーリエ解析」(岩波書店)や「精度保証付き数値計算」(コロナ社),「非線形解析入門」(コロナ社)などの10冊以上の単著等の執筆により教育面でも貢献されています.

 以上のように,電子情報通信分野の基礎の発展に,研究教育及び社会貢献の両面で多大な貢献をされた同君の功績は極めて顕著であり,ここに本会名誉員として,推薦致します.

区切


金出武雄

金 出 武 雄

推 薦 の 辞

 金出武雄君は,1973年に京都大学大学院博士後期課程を修了,同大学助教授を経て,1980年にカーネギーメロン大学計算機科学科・ロボティクス研究所に移られ,1985年に同大学教授に就任されました.1998年にはカーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授に就任され,現在に至っています.同大学ではロボティクス研究所所長,Quality of Life Technology(QoLT)センター長を歴任されました.国内においても,産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボ長を務められたほか,政府の委員会,理化学研究所,大阪大学,奈良先端科学技術大学院大学,京都大学等においても要職に就かれ,コンピュータビジョンやロボティクス領域の研究開発とその産業応用の進展をけん引されてきました.

 同君は常に新しい領域を先駆的な取組みによって切り開かれてきました.1970年の大阪万博では,一人10秒をかけて来場者の顔画像を認識し性格分析を行うというデモンストレーションを敢行されました.今日では,技術の進展で1秒当り何千万人レベルでの顔認証が実用化されていますが,コンピュータを活用した生体認証の端緒となる取組みであったと言えます.大阪万博で集めた1,000枚以上という当時としては破格の数の顔画像情報をデータベース化し,次の研究の進展につなげられました.これは,データを活用した研究開発の先駆的な取組みであったと言えます.理論面では,二次元の線画から元の三次元形状を導き出す「折り紙世界の理論」,動画像処理において前の画像のある点が次の画像のどこに動いたかを追跡する「Lucas-Kanadeアルゴリズム」などを導出されています.特に後者は現在でもMPEGで広く用いられるなど,動画像処理の基本を支えるものとなっています.

 同君は自動運転でも大きな貢献をされました.1980年代半ばに早くも研究に着手し,1995年には,アメリカ大陸横断を98%自動運転で達成されました.現在,様々な運転支援システムや自動運転の導入が検討されていますが,正にその萌芽にあたる先駆的な取組みと言えます.2001年,アメリカンフットボールのスーパーボウルでは33台のカメラを駆使し,自由な視点からの映像を合成して提供するシステムを提供されました.「仮想化現実」と呼ばれるこの技術は,スポーツをはじめ多くのシーンで現在盛んに活用されています.

 同君は「素人発想,玄人実行」の考えに基づきながら,常に価値の創出を目指し,ユーザが使いやすく楽しく安全なものを創ることを意識して研究に取り組んでこられました.多くの研究プロジェクトを進める過程でこの意識を伝え,日米を中心にグローバルに多くの人材を育んでこられました.現在も多くの研究開発プロジェクトにリーダーやアドバイザーとして参加される中で,これからの研究開発のあり方を示唆するとともに,多くの人材に薫陶を与え続けられています.

 これらの業績により,本会のみならず日本ロボット学会,IEEE,ACM,アメリカ人工知能学会のフェローに選出されるとともに,エンゲルバーガー賞,C & C賞,船井業績賞,大川賞,フランクリン財団バウアー賞,京都賞,IEEE創始者記念メダル等,数多くの受賞をされています.更に米国工学アカデミー,米国芸術科学アカデミーの会員に選ばれるとともに,令和元年文化功労者として顕彰されています.

 以上のように,同君の電子情報通信技術の発展並びにそのグローバルな社会展開についての功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


萩本和男

萩 本 和 男

推 薦 の 辞

 萩本和男君は,1978年3月に東京工業大学工学部を卒業,同修士課程を経て,1980年4月に日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社され,2005年同先端技術総合研究所未来ねっと研究所所長,2009年同先端技術総合研究所所長に就任されました.2013年にはNTTエレクトロニクス株式会社代表取締役社長,2019年に同相談役に就任され,現在に至っています.

 同君は,今日の社会基盤である光ファイバ伝送システムの大容量化をけん引し,ファイバ当りの伝送容量が毎秒ギガビットの黎明期から,現在のテラビットに至るまで,基幹となる光通信技術の開拓と実用化を担ってきました.

 特筆すべき業績として,1989年に,エルビウム添加光増幅器(EDFA)を用いた長距離光中継システム技術を開発し,ギガビット長距離光伝送システムを世界で初めて実証しました.更に同年,外部変調器や分散補償ファイバ等機能部品を導入することで,伝送速度をギガビットから10Gbit/s以上に高速化可能なことを世界で初めて実験実証,1996年には,本成果を世界に先駆けて10Gbit/s陸上光増幅中継システムとして実用化しました.同時に,光通信システムにおける基準周波数(193.1THz)や10Gbit/sディジタルフレーム多重化階梯の国際標準を提案し,システム信頼性の確認や測定技術の開発を合わせて行い,光増幅中継システムのグローバルな導入に貢献しました.また,商用環境下での高出力励起パワーの安全運用技術を確立することで,世界で初めて低雑音分布ラマン・EDFAハイブリッド光増幅中継方式を確立して2003年に実用化,2007年には波長当り40Gbit/sの大容量波長多重光伝送システムを実用化し,テラビットネットワーク時代の先駆けとなりました.旺盛なディジタル需要を後押しされ,100Gbit/sベースの本格的テラビット時代に向けて,従前の開発体制の殻を破り,コミュニティベースの産官学連携体制を組織して,世界と協調・競争できる日本の光伝送技術の世界を導きました.

 同君は,卓越した見識と指導力により,海外キャリヤ連携などの数々のプロジェクトを指揮し,光伝達網(OTN)の国際標準化,大容量光通信システムにおける産学官の連携等に長年にわたり指導的役割を果たし,本分野における日本の国際競争力の強化と後進の育成に尽力してこられました.その活動は,NTTをはじめ日本の長距離基幹網を支える根幹を担うとともに,海外にも広く浸透しました.本会でも,2001~2002年度光通信システム研究専門委員会委員長,2006~2007年度総務理事,2011年度通信ソサイエティ会長を務めて指導力を発揮してこられました.

 これらの業績から,1989年度光産業技術振興協会桜井健二郎氏記念賞,1991年IEE Oliver Lodge Premium,1993年度高柳記念電子科学技術振興財団高柳記念奨励賞,2006年度逓信協会前島賞,2008年IEEE Fellow, 2009年度文部科学大臣表彰科学技術賞,2009年度産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞(開発)を授与されており,更に,2016年には,「大容量光増幅中継システムの開発」に関して平成28年春の紫綬褒章を受章されました.また,本会では2度の業績賞と2005年のフェロー称号の授与に加え,2013年に功績賞を授与されています.

 以上のように,同君が電子情報通信分野の発展に貢献された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


三村髙志

三 村 髙 志

推 薦 の 辞

 三村髙志君は,1967年に関西学院大学理学部物理学科を卒業,1970年に大阪大学大学院基礎工学研究科物理系修士課程を修了し,同年,富士通株式会社に入社されました.その後,1982年に大阪大学から工学博士の学位を授与され,1998年に(株)富士通研究所フェロー,2017年同社名誉フェローに就任され,現在に至っています.その間,2006年から,独立行政法人情報通信研究機構客員研究員,国立研究開発法人情報通信研究機構統括特別研究員を務められ,オープンイノベーションの推進にも尽力されています.

 同君は長年にわたり半導体電子デバイス並びにその産業応用に関する研究に取り組まれ,数々の優れた成果を挙げられました.特に,1979年に発明された高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)は,電子親和力の異なる2種類の半導体を積層したときに生じる移動度が高い電子に着目して,その電子濃度を電界効果で制御する新しい構造のトランジスタであり,高周波・低雑音・低損失という観点で従来のトランジスタを凌駕する性能を有しています.

 発明以来,同君はHEMTの高周波素子・高速素子としての実用化に向けた研究開発に先導的な役割を果たされました.HEMTは1985年に電波望遠鏡用の低雑音増幅器として初めて製品化され,未知の星間物質の発見など電波天文学に大躍進をもたらしました.続いて,民生用途でも衛星放送受信機用低雑音増幅器として用いられ,パラボラアンテナ径を大幅に縮小することを可能とし,国内外における衛星放送の爆発的な普及及び情報流通のグローバル化に大きく貢献しました.その後も,HEMTは自動車の衝突防止レーダ,全地球測位システム(GPS),移動体通信システムなどに使われ,高度情報通信社会のインフラを支えるキーデバイスとして社会の発展に寄与し続けています.また,今後の情報通信社会の課題である通信容量の大容量化と機器の低消費電力化に向けて,高周波特性に優れ,また低損失で動作するHEMTは重要な役割を担うと期待されています.

 HEMTの実用化に向けた研究開発の過程で,同君は,原子層オーダの精度で膜厚を制御できる結晶成長技術や加工技術の重要性を早くから認識され,その研究開発の推進にも努められました.これらの技術は,HEMTのみならず,その後の化合物半導体デバイス全般の発展の基礎となり,幅広く使われています.また,同君を中心としたデバイス技術の進展に触発される形で,半導体ヘテロ構造の物理の理解が進んでおり,学術的にも極めて大きな波及効果を及ぼしました.

 これらの業績は国内外で高く評価され,本会業績賞,功績賞,更に,社団法人発明協会恩賜発明賞,紫綬褒章,公益財団法人稲盛財団京都賞先端技術部門,IEEE Morris Liebmann Memorial Award,化合物半導体国際シンポジウムHeinrich Welker Award,応用物理学会業績賞などを受賞されておられます.また,本会に加えて,IEEE,応用物理学会からフェロー称号を授与されています.

 以上のように,同君の半導体電子デバイス並びにその産業応用に関する研究業績及び電子情報通信分野への貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


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