功績賞贈呈

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Vol.103 No.7 (2020/7) 目次へ

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第81回 功績賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著である者)による功績賞(第81回)受賞者を選定して,2019年度は次の5名の方々に贈呈した.

赤嶺政巳

赤 嶺 政 巳

推 薦 の 辞

 赤嶺政巳君は,1979年琉球大学理工学部電気工学科を卒業,1982年東北大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程を修了,1985年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程を修了し,同年,東京芝浦電気株式会社(現(株)東芝)に入社されました.2005年から(株)東芝研究開発センター技監,2016年から慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授も務められ,2019年から東北大学大学院工学研究科特任教授,現在に至っておられます.企業の研究者としての業績は特筆すべきものがあり,また音声合成の実用化研究で電子情報通信の分野において活躍されています.

 同君は,音声合成技術の研究開発を長年先導し,特に,閉ループ学習という音声合成の新たなパラダイムを提唱し,それに基づく音声合成方式を世界で初めて開発し性能の飛躍的向上と産業の発展に多大な貢献をしました.

 それまでの音声合成では,入力から出力までの各種中間信号処理において個別にパラメータを最適化していました.これに対して,同君が開発した閉ループ学習では,最終的な合成音声と教師信号の間のひずみを評価量として定式化することで,これを最小化するようにパラメータを自動的に学習することを可能にしました.その結果,合成音声の品質が格段に向上するだけでなく,それまで数GByte規模のメモリが必要だった合成処理を僅か数百kByte程度のメモリで実現することに成功しました.

 この音声合成の先駆的技術は,東芝製品に限らず,カーナビや電子辞書,ビデオゲーム機等の民生機器やエスカレータやエレベータ等の社会インフラ機器等に広く採用され,産業の発展に大いに貢献しました.今日に至って,音声合成の学習方式が統計モデルや機械学習などに置き換わっても,この閉ループ学習というパラダイムは一貫して用いられており,現在発展著しい音声合成のクラウドサービス(例えば東芝のRECAIUS(TM))やスマートスピーカにおいても中心的役割を担っています.

 本会においては,長年論文査読委員を務めるとともに,論文特集号編集委員を務め,学会の運営と活性化に尽力されています.また,1999年から2011年まで総務省情報通信審議会情報通信技術分科会ITU-T部会マルチメディア委員会委員,2011年から2018年まで情報通信技術委員会マルチメディア応用専門委員会委員,2015年から2018年まで国立情報学研究所音声コーパス推進委員会委員,2016年から2018年まで東北大学電気通信研究所運営協議会委員,など技術振興,学術振興に関わる各種会議において重要な役割を果たされています.

 同君は,音声合成に関する研究で本会情報・システムソサイエティの連作論文賞,「省メモリに適した高品位音声合成方式の先駆的研究」への貢献で本会業績賞,マイルストーンを受賞するなど音声合成分野で顕著な業績を挙げ,学術発展に大きく貢献しました.また,これらの功績により,文部科学大臣賞研究功績者,市村産業賞功績賞,全国発明表彰内閣総理大臣発明賞等計11件を受賞するとともに,我が国における音声合成の第一人者として紫綬褒章を受章しています.

 以上のように,同君の音声合成技術に関する研究業績に加え,本会及び電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


加藤修三

加 藤 修 三

推 薦 の 辞

 加藤修三君は1972年3月に北見工業大学工学部電気工学科を卒業,1977年3月に東北大学大学院工学研究科電気及び通信工学専攻博士課程を修了され,同年日本電信電話公社電気通信研究所に入社,衛星通信及びPHS通信の研究開発に従事し,1995年に退職しました.その後,日米で起業,副社長・社長等を歴任,2006年には独立行政法人情報通信研究機構プログラム・ディレクタ,2008年には東北大学電気通信研究所教授,2015年には東北大学名誉教授となり,現在もなお電子情報通信分野の発展に尽力されています.

 同君は,1980年代初頭にASICの開発データを直接FPGA設計データに変換し,リワークを最小化する開発手法を世界に先駆けて開発し,世界のリワーク平均回数約2.5回に対し,リワークフリー(リワーク率:0/39品種)を実践し,現在も用いられているASIC開発手法の先駆けとなりました.本開発手法を用い,種々の衛星通信用時分割多元接続(TDMA)装置に汎用的に適用可能な6種TDMA ASICの開発に成功,従来装置の約1/5のハードウェア規模化・高安定動作化に成功し,衛星TDMA通信システムの国内通信網への適用に道を開きました.また商用ASICとしては世界初の2V動作PHSベースバンドASICの開発・消費電力の1/2化に成功し,この分野では世界初の同期検波及びディジタル音声誤りによる雑音の除去方式の発明により計6dB他社製品に優る受信感度のASIC/携帯端末の開発に成功し(1994年時),多くの企業への技術供与を通じ,PHSビジネスの発展に貢献しました.

 日本発技術のIEEE標準化のため,2006年にコンソーシアムを21(日本:20)機関で構築し,更に海外機関の参加を得,計39の国際機関をマネージし,日本機関が最初から最後までやり遂げた最初のミリ波(60GHz)標準化を2009年に達成しました.本過程で,提案した「コモン・モード」は,IEEE標準化で頻繁に起きていた二陣営間の対立を避けることに成功・高く評価され,その後の多くの標準化で取り入れられ,標準化作業の迅速化が図られました.また,この成功により,日本機関の地位は大きく向上し,その後のIEEE標準化の大きな礎となりました.

 学会活動では,本会編集理事として論文電子投稿システムの構築・論文投稿費用1/2化(1995年時),ワイヤレスLAN/PANを中心とした短距離無線通信研究専門委員会の立上げ(2011年)等に貢献し,国際的にはIEEE COMSOCの論文編集委員,衛星及び宇宙通信委員会委員長,IEEE Computer SOC. の標準化802.15.3c Vice Chair等を歴任し,1991年には無線通信国際会議,PIMRCをCo-founderとして立ち上げ,論文の質・参加者数共に世界のトップ無線国際会議へと育て,グローバルな研究開発推進に貢献しました.これらの貢献に対して,本会から論文賞,IEEEから「衛星通信ディスティングイシュト・サービス」賞,「スタンダード・アソシエーション」賞(ミリ波通信ほか3回),ITU標準化部門からは論文賞等を受賞,また本会及びIEEEからフェローの称号が授与されています.

 以上のように同君が本会並びに国際学会,企業並びに大学における重要な職責を担われ,様々な活動を通して本会の運営及び電子情報通信分野の学術及び産業の発展,後進の育成と日本の活性化に寄与された功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するに真にふさわしい方であると確信致します.

区切


黒田 徹

黒 田  徹

推 薦 の 辞

 黒田 徹君は,1980年3月に東京工業大学工学部電気電子工学科を卒業,1982年に同大学院総合理工学研究科を修了し,同年4月に日本放送協会に入局されました.1997年に同放送技術研究所主任研究員となり,同年東京工業大学から工学博士の学位を授与されています.2008年に同総合企画室統括担当部長,2012年に同放送技術研究所副所長,2014年から2018年には同放送技術研究所所長として活躍されました.

 同君は長年にわたり放送のディジタル化,4K8K化等を推進し,放送分野における技術の発展に大きく貢献されました.特に,地上テレビジョン放送のディジタル化に関して,伝送方式の研究開発から実用化に至るまで中心的な役割を果たし,極めて顕著な業績を挙げられました.

 地上デジタル放送方式として,1993年に周波数資源を有効に活用する帯域分割OFDM(BST-OFDM)方式を考案され,テレビ放送と音声放送が共通に利用できる伝送方式の開発を進められました.1997年には,BST-OFDMを基にして,6MHzのチャネル帯域幅で,ハイビジョンとワンセグを同時に伝送可能なISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)方式を提案されました.特にワンセグは携帯電話でテレビを受信することができる画期的な方式であります.同君は,情報通信審議会やARIB開発部会においてISDB-T方式の標準化作業を中心となって推進され,また国際的にも標準化活動を積極的に行われました.その結果,ISDB-Tは1999年に日本の標準方式として承認され,また2000年にはITU-Rにおいて世界標準方式の一つとして勧告され,日本はもとより海外でも広く実用化に至りました.

 地上デジタル放送の実用化時期には,ARIBのデジタル放送システム委員会作業班主任,地上デジタル放送推進協議会運用規定主任などを歴任するなど,中心的な役割を果たし実用化に尽力されました.その後も,ARIBデジタル放送システム開発部会委員長を2014年11月まで務めるなど,継続的にディジタル放送に関わる規格策定や改定を行い,普及推進にも貢献されました.また,地上デジタル放送だけでなく,FM多重放送の研究開発及び標準化,衛星放送の4K8K化推進,インターネット活用技術,高度な番組制作技術など放送分野全体の先駆的な研究も主導されました.

 上記の業績に対し,電波産業会電波功績賞電波産業会会長表彰,NEC C&C財団C&C賞,電気通信協会ICT事業奨励特別賞,発明協会全国発明表彰日本弁理士会会長賞,本会業績賞など数多くの表彰を受けられています.また,同君の主導力と高い専門性は,日本学術会議連携会員,総務省情報通信審議会技術戦略委員会専門委員,国立情報学研究所研究開発連携本部客員教員,本会APMC2014組織委員,映像情報メディア学会副会長等の要職の歴任によっても認識されております.

 以上のように,同君の放送分野を中心に情報通信分野に至るまでの技術革新における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

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永妻忠夫

永 妻 忠 夫

推 薦 の 辞

 永妻忠夫君は,1981年に九州大学工学部を卒業後,1986年に同大学院博士課程を修了され,同年,日本電信電話株式会社厚木電気通信研究所に入所されました.1996年に同LSI研究所主幹研究員,1999年に同通信エネルギー研究所特別研究員/主幹研究員,2002年に同マイクロシステムインテグレーション研究所グループリーダ/主幹研究員,2007年から国立大学法人大阪大学教授として活躍されております.

 同君は,無線通信の帯域枯渇に対応するべく未利用周波数の開拓者として,テラヘルツ領域の電磁波帯において,信号発生・検出技術を発展させ,テラヘルツ帯域の大容量無線伝送通信システムの礎を築いてきました.

 無線通信容量の爆発的な増加に伴って生じる周波数資源の枯渇という課題に対して,周波数が高いテラヘルツ帯と呼ばれる領域では電波利用が進まない状況にありました.発生,並びに検出技術の観点で言えば,光技術と電気技術のはざ間の周波数であることが理由の一つでした.同君は光通信用に開発された1.55µm帯光技術を活用することによって,高純度,高安定,周波数可変の超100GHz光サブキャリヤ信号発生技術を開発し,この技術と,高速フォトダイオード及びアンテナを集積したモジュールを組み合わせた無線送信機を提案し,従来になかった大容量無線通信システムとして実現させました.また,世界屈指の性能を有するHEMT(高電子移動度トランジスタ)技術を用いた120GHz帯の広帯域・高感度受信機MMICの開発をけん引し,総務省の電波資源拡大のための研究開発の下,高出力増幅器を開発し,屋外での10Gbit/s級無線リンクの長距離化(>5km)を実証しました.これらの成果はITU-Rのテクニカルレポートにまとめられ,同周波数帯の通信用途への利用を国際的に促しました.また,2014年には放送素材伝送通信の用途として120GHz帯の実利用を可能とする電波法関係審査基準の改正等,5G以降のモバイル通信における高周波利用の議論にも貢献しています.加えて,275GHzより高い周波数帯については,国際的に割当のない周波数帯であることから,より一層の広帯域化に向け,300GHz帯の開拓を世界に先駆けて推進しました.この業績は,テラヘルツ波を利用した100Gbit/s級無線通信の研究開発が世界的にブレークするきっかけとなりました.最近では600GHz帯のフォトダイオード技術の開発によって,同周波数帯での高速無線伝送を実証するなど,テラヘルツ帯域における大容量無線伝送の可能性を広げ続けています.

 同君は上記の業績により,科学技術長官賞,本会業績賞,前島密賞,文部科学大臣表彰,本会フェロー,IEEEフェロー等を授与されております.また,数多くの実験実証を通し同分野の技術トレンドをけん引しているほか,日本学術会議の委員会委員長や,国際会議のプログラム委員,チェアを歴任しこの分野の発展に尽力しております.また本会においては,調査理事,副会長を歴任するなど,本会の発展にも貢献されました.

 以上のように,同君の情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


安浦寛人

安 浦 寛 人

推 薦 の 辞

 安浦寛人君は,1976年3月に京都大学工学部情報工学科を卒業,1978年に同大学院工学研究科情報工学専攻修士課程を修了,1980年4月に同大学工学部助手,1986年同助教授を経て,1991年から九州大学大学院総合理工学研究科教授,1996年から2019年まで同大学院システム情報科学研究科(現研究院/学府)教授を務められました.2008年からは九州大学理事・副学長を務めておられます.

 同君は長きにわたり,省エネルギーコンピューティングやディペンダブルコンピューティングを支えるVLSI技術の構築に携わってこられました.現代の半導体システムにおいて,その低消費電力化を実現する最も効率的なアプローチの一つとしてDVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)があり,同君はその理論的解明とモデル化,更には,当該技術を用いたコンピュータシステム設計等を行いました.これらの基礎技術は現代コンピュータの多くで実用化されており,同君の著した論文は900を超える引用があり,高いインパクトのある論文として世界的に認められています.また,半導体チップのテスト効率を改善するための新しい手法の考案や,RFIDを用いたセキュリティ技術を確立しました.コンピュータシステムの利活用やICT応用の普及において,信頼性並びに安全性を高めることは極めて重要であります.同君は,理論的研究にとどまらず,実フィールドにおける社会実証実験へと展開し,真に社会で利用できる技術の開発とその体系化・一般化を行いました.これは,社会情報基盤を構築する上で極めて大きな功績です.更に,ハードウェアとソフトウェアの協調設計という新しいコンピュータシステム設計法を発案しその有効性を実証しました.半導体微細化の終えんが目前に迫ってきた現状において,様々な分野でハードウェアとソフトウェアの協調設計の必要性が示されています.同君はこの概念を1990年代後半から提唱しており,現代のコンピュータ設計法に大きなインパクトを与えました.

 これらに加えて,情報技術に基づく新しい社会システムの構築論を展開され,独自技術を用いたICカード学生証/職員証とそれに基づく多様なキャンパスサービス,全学的なBYOD(Bring Your Own Device)に基づく教育支援システムの構築など,新しい情報技術を導入した様々な社会実装にも注力されてきました.大学ICT推進協議会初代会長として協議会発足の中心的役割を担い,全国の高等教育・学術研究機関におけるICTを利用した教育・研究・経営の高度化を推進されました.またJSTさきがけ研究総括として情報科学分野の若手研究者育成にも尽力されるとともに,文部科学省知的クラスター創成事業・福岡拠点の研究統括(「シリコンシーベルト福岡構想」などを展開),福岡システムLSIカレッジ校長などを務められ,地域の発展・人材育成にも大きく貢献されるなど,その功績は極めて大であります.

 上記の業績に対し,本会,情報処理学会,IEEEからフェローの称号を授与されるとともに,本会業績賞,産学官連携功労者表彰文部科学大臣賞等,数多く受賞されています.同君は本会副会長,日本学術会議会員,文部科学省情報科学技術委員会委員等も務め,情報技術分野の振興に大きく貢献しておられます.以上のように,同君の本会並びに電子情報通信工学分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信する次第です.

区切


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