解説 ダブルディグリーによる高度国際人材育成の10年間

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多様化する大学教育シリーズ

 解説 

ダブルディグリーによる高度国際人材育成の10年間

A Decade-experience of Global Human Resource Nurture through Double-degree Programs

小尾晋之介

小尾晋之介 慶應義塾大学理工学部機械工学科

Shinnosuke OBI, Nonmember (Faculty of Science and Technology, Keio University, Yokohama-shi, 223-8522 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.8 pp.835-842 2020年8月

©電子情報通信学会2020


8月号「多様化する大学教育シリーズ」目次

・ダブルディグリーによる高度国際人材育成の10年間

・【コラム1】スウェーデンでのダブルディグリー経験して

・【コラム2】フランスでの挑戦

・【コラム3】フランスから日本に来てみての挑戦

A bstract

 慶應義塾大学理工学部・大学院理工学研究科では,欧州の理工系高等教育機関との協力により,学生に対して修士相当の学位を双方から授与するダブルディグリープログラムを10年以上継続してきた.二つの学位を授与するため通常の学修期間を1年間延長し,エンジニアとしての多文化理解を深めることを目的として留学期間を1.5年ないし2年に設定している.日本人学生,留学生を合わせてこれまでにプログラムの修了生は200名を超えた.修了生の主な進路はグローバル企業への就職だが,社会のリーダーとして顕著な活躍が見られるようになるまではまだ数年の時間を要するだろう.

キーワード:ダブルディグリー,エンジニアの多文化理解,国際コース,欧州理工系大学

1.プログラム設立の経緯

 慶應義塾大学理工学部並びに大学院理工学研究科では,2005年に最初の協定が締結されて以来,欧州の複数の理工系大学・高等教育機関とダブルディグリープログラム(DDP)を運用してきた.プログラムを修了した日本人学生の1期生が学位を取得したのが2010年であり,今年で10期生が修了を迎えるにあたり,この取組みの10年間を振り返る機会を頂いた.本稿ではその設立の経緯と実情,課題を含めて概説する.

1.1 プログラム導入の打診

 本学にDDPという教育制度に関する情報が初めてもたらされたのは1999年頃で,当時20年を超える協力関係にあったフランスの高等教育機関,グランゼコール(2.1に後述)の一つ,エコールサントラルナント(ECN: Ecole Centrale Nantes)の国際交流担当者からの協力への打診だった.当時,欧州ではEU統合の議論が進む中で,高等教育機関の仕組みにおいても欧州域内各国において融合へ向けての動きが加速していた.すなわち,高等教育を受ける学生たちは国境をまたいで複数の大学をめぐって見聞を深めるスタイルが普及する中で,複数の大学が共同で学位を授与する制度が整いつつあった.

 欧州域内でのこのような学びの流動性(モビリティ)が発展を続け,大陸をまたいだ国際協力の形で米国やアジアへと拡張される機運が高まる中で,欧州各国から日本の高等教育へのアプローチも盛んになりつつある状況にあった.

 ECNから提案されたDDPは,一般的な交換留学をベースとしながら,留学期間を通常より長い2年間とすることで,学位を授与するために必要な学習内容を確保するというものであった.当時,このプログラムは既にECNにおいて中国の4大学及びブラジルの6大学との間で開始されており,定着しつつあるという説明を受けた.


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