小特集 4.【加工×ICT】味と匂いを測るセンサ

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食とICT

小特集 4.

【加工×ICT】
味と匂いを測るセンサ

Sensors to Measure Taste and Smell

都甲 潔

都甲 潔 九州大学高等研究院

Kiyoshi TOKO, Nonmember (Institute for Advanced Study, Kyushu University, Fukuoka-shi, 819-0395 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.9 pp.895-902 2020年9月

©電子情報通信学会2020

abstract

 五感のうち視覚,聴覚,触覚は光や音,圧力を受容するため物理感覚と言われ,味覚と嗅覚は化学物質を受容し,認識する感覚であるため化学感覚と呼ばれる.物理感覚を表現するセンサは古くから実用化されているが,味と匂い(臭い)を測るセンサの開発は遅れていた.この状況も近年大きく改善されつつある.味覚センサはこの10数年で実用化され全世界で使われ始めている.匂いセンサも近年のAIの発達に連動し著しい進展を示している.本稿では,これら味と匂い・香りを数値化するセンサの原理と応用,そしてその結果生まれる新しい食世界を紹介する.

キーワード:味覚センサ,匂いセンサ,味,匂い,AI

1.は じ め に

 昨今のAI(人工知能)の発展には著しいものがあり,機械翻訳システム,郵便番号の自動認識,企業内教育・訓練システム(e-learning),知的情報探索,ナレッジマネジメント,株の自動取引,カードの不正利用検知,迷惑メールの通知,医療診断,テレビゲーム,災害時における意志決定支援システム,電気製品の品質管理システム,カスタマーセンター(コールセンター)支援システム等といった数々の研究開発と応用がなされている(1).AIをコンピュータを使ったデータ処理と解釈すると,生体系ではコンピュータの役割を脳に置き換えて考えてよいであろう.その場合,味覚や嗅覚では脳で「パターン認識」を行っているのであろうか.また,これらセンサを開発する科学技術の世界ではどうなのであろうか.

 正解は,味覚ではパターン認識は行っておらず,嗅覚では行っている,である.そこで,まず次章では,味覚と嗅覚の違いを説明し,続いて味覚センサによる種々の高付加価値の食品作りと食サービスを,続いてAIを用いた匂いセンサ(嗅覚センサ)開発の現状を紹介することとする.

2.食における味覚と嗅覚

 言うまでもなく,味覚と嗅覚は低分子化合物を受容して生じる感覚であり,その意味では似通った感覚(化学感覚)である.視覚,聴覚,触覚は光,音,圧力という物理量を受容する感覚であることから物理感覚と呼ばれ,化学感覚とは一線を画する.しかしながら,味覚と嗅覚も,図1にまとめているように,検知しきい値の高低,レセプタ(受容体)の数の多寡,基本要素(基本味,基本臭)の有無の点から見ると,随分と異なる感覚でもある.

図1 味覚と嗅覚の世界

 まず検知しきい値であるが,味覚はppm以上の高濃度で感じるのに対し,嗅覚はppbやpptといったごくごく低濃度で生じる感覚である.酸味や苦味物質はppmレベルで,甘味物質は1,000ppm以上の濃度で受容される.匂い(臭い)や香り物質では,ベンゼンといった溶剤はppmレベル,メチルメルカプタンや二塩化硫黄の硫黄臭はppbレベル,硫化水素の腐卵臭はppb以下,地中から漏れ出る爆発物の匂いはpptレベルと言われる.


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