小特集 3. DONETを利用した津波予測技術

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防災・減災に向けた災害監視・予測技術

小特集 3.

DONETを利用した津波予測技術

Tsunami Prediction System Based on the DONET

今井健太郎 柄本邦明 高橋成実

今井健太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構海域地震火山部門

柄本邦明 和歌山県危機管理局

高橋成実 国立研究開発法人防災科学技術研究所地震津波火山ネットワークセンター

Kentaro IMAI, Nonmember (Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Research Institute for Marine Geodynamics, Yokohama-shi, 236-0001 Japan), Kuniaki EMOTO, Nonmember (Risk Management Bureau, Wakayama Prefecture, Wakayama-shi, 640-8585 Japan), and Narumi TAKAHASHI, Nonmember (Network Center for Earthquake, Tsunami and Volcano, National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, Tsukuba-shi, 305-0006 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.9 pp.931-937 2020年9月

©電子情報通信学会2020

abstract

 南海トラフで発生が危惧されている巨大地震とそれによる津波に対し,津波防災に向けた行動計画の再構築や人的被害軽減のための迅速な対応策の検討が極めて重要になる.その対応策の一つとして,即時的な津波予測が有効と考えられる.本稿では,地震と津波観測に向けたちゅう密海底観測網(DONET)による沖合観測網を利用した即時津波予測システムについて紹介する.本システムにより,地震と津波の初動到達時間を即時評価できること,沿岸津波高や浸水域の即時予測が可能である.また,本システムは基礎自治体やインフラ事業者に実装され,実運用されている.

キーワード:南海トラフ巨大地震,海底観測ネットワーク,津波,即時予測,社会実装

1.は じ め に

 過去の南海トラフ巨大地震は和歌山県最南端の潮岬近傍を震源として繰り返し発生している.震源近くの沿岸地域の津波浸水想定(1)によると,紀伊半島南部地域では3分で1mの津波が沿岸部に到達すると予想されている.地震発生直後には災害情報の入手が極めて困難となる可能性があるため,人的被害軽減や迅速な事後対応のためには,巨大地震の発生規模に応じた津波被害予測情報が極めて重要となる.

 現在,紀伊半島から室戸半島南東の沖合には,地震・津波観測監視システムDONET(2),(3)が海洋研究開発機構(以下,JAMSTEC)により構築され,防災科学技術研究所(以下,NIED)により運用されている.沖合観測データを利用した津波即時予測手法についても,激甚津波災害をもたらした2011年東北地方太平洋沖地震以降,多くの研究が行われており(例えば,文献(4)~(10)),沖合観測を行うハードウェアとそのデータを用いて津波予測を行うソフトウェアが整ってきている状況にある.このような状況を鑑み,JAMSTECではDONETによるリアルタイム津波観測を利用する即時津波予測システムを開発し,南海トラフ巨大地震の影響を受けると予測されている太平洋沿岸の一部の自治体やインフラ事業者において実装され,実運用されている.

 本稿では,DONETとそれを利用した津波予測システムの概要について紹介し,現状の課題について述べる.

2.DONETの概要

 DONETは,南海トラフの地震・津波の常時観測監視を目的とした海底ケーブル式の地震・津波観測監視システムである.紀伊半島沖のDONET1(2011年度から運用開始)と紀伊水道沖のDONET2(2016年度から運用開始)の51観測点網から構成される(図1,JAMSTEC,オンライン).DONET1の観測網は,三重県尾鷲市古江町の陸上局から紀伊半島の沖合約125km先まで,総延長約250kmにわたる基幹ケーブルをループ状に敷設し,その途中5か所にノードを設けて,それぞれに観測点が接続されている.DONET2の観測網は,システムの構成はDONET1と同様であるが,高知県室戸市と徳島県海陽町に設置された陸上局から総延長約350kmにわたる基幹ケーブルをループ状に敷設し,7か所のノードに観測点が接続されている.


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