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防災・減災に向けた災害監視・予測技術
小特集 4.
重力加速度計測による地殻変動・火山活動観測技術
Observation Technologies for Crustal Deformations and Volcanic Activities Based on the Measurement of Gravitational Acceleration
abstract
地震や火山噴火現象を科学的に理解しそれを防災に役立てるためには,地殻変動や火山活動の観測が不可欠である.近年の技術の進歩により,地面の動き・傾き・地震動とともに,火山ガスや空振・監視カメラ映像など多様な観測量のデータが得られるようになってきた.重力加速度もその一つで,地面の上下変動や地下の密度変動に感度を持つ.特に後者は火山観測においてマグマの状態を理解するのに有効であるが,高精度の重力計を火山の厳しい環境に設置するための技術的な課題も多い.本稿では,特に火山観測における重力加速度計測の方法とそれによって得られた知見,今後の観測に向けた取組みなどを紹介する.
キーワード:重力加速度,重力計,火山観測,レーザ干渉計,通信波長帯
地震発生や火山活動は地下深部の岩盤の状態やそこに加わる応力などの物理的な作用とともに,岩石の化学組成や流体による作用等,様々な要因が関与していると考えられ,その本質を理解するためには各種の物理量の観測が不可欠である.地震発生や火山活動は発生場所のみならず周辺の地域に地殻変動を生じさせ,例えば国土地理院が全国に展開しているGNSS(Global Navigation Satellite System,全世界測位システム)の観測網(GEONET,GNSS Earth Observation Network System,GNSS連続観測システム)により,観測点の地面の動きを人工衛星からの電波を基準に捉えることができる.特定の場所の震源や活動している火山の周辺にはより詳細な観測を行うために,臨時のGNSS観測点が設置されることもある.
地震発生や火山活動等の「イベント」の前後で地表がどのように移動したかという観測結果と,地下における地震断層のずれや火山のマグマ貫入などを仮定した「モデル」を用いて地表に発生する変位を計算した結果を双方比較し,それらが一致すればそのモデルの状況が地下で起こったと解釈することができる.実際には,観測点の数や精度がモデルを検証するために不十分という場合や,複数の地震断層やマグマ活動が関与して単純なモデルで説明できないことも多く,GNSSの観測とともに別の観測による付加情報も用いてモデルを構築していく.地震計による観測結果からは地震波の波形のパターンから断層運動の方向や大きさなどが,余震の震源分布からは断層面の形状がそれぞれ推測できる.火山活動の場合も微小地震の震源の分布や時間変化からマグマが貫入している場所を推定できる.ほかにも火山ガスや地下水等の化学的な観測も行われる.
これらとともに,近年の技術の進歩により重力加速度の測定精度が向上し,地殻変動や火山活動の観測に用いられるようになってきた.地表での重力加速度はおおよそ9.8m/s2であるが,緯度により異なり,9.78~9.83m/s2の範囲である.また,標高がおおよそ1km高くなると地球中心から離れるため,約3×10-3m/s2の割合で重力加速度が低下する.つまり,ある場所で重力加速度を正確に測定すると地面の上下変動を知ることができる.最新の重力加速度計(以下,重力計)では,1×10-8m/s2の精度で重力加速度が測定可能で,これは約3mmの上下変動に相当する.また,地下のマグマ移動などで密度変化が生じるとその質量変化による引力の変化が重力計で観測されるため,地下の流体移動の情報を得ることができる.これは地下の質量変動を引力という遠隔力を用いて検知することになり,重力計を用いないと観測できない物理量である.実際には,マグマ貫入等の火山活動があると引力の変動とともに地面の上下変動も生じるため,GNSSによる地表変位の観測と組み合わせて地下の質量変化を推定する.本稿では,重力計の仕組みとともに,特に火山観測において重力観測から得られた知見を紹介し,現状の問題点や今後の新たな観測へ向けた重力計開発の取組みなどについて紹介する.
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