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解説
HAYABUSA2ミッションにおける深宇宙通信
Deep Space Telecommunication of HAYABUSA2 Mission
A bstract
帰還のニュースがひとしきり流れて落ち着いた感がある.関心冷めやらぬうちに,余りなじみのないと思われる深宇宙通信の世界を紹介してみたい.HAYABUSA2の通信システムは,現時点のJAXAの深宇宙探査機の同機能の集大成と言えて,題材とするのにちょうどよいと考えた.深宇宙へこぎ出る探査機の通信システムの成り立ちや通信回線の実際を知ってみれば,地上の通信開発との方向性,速度あるいは時間感覚や価値観の違いに気付くことだろうと思う.そういった知識の下に,今後,分野のニュースに接したならば,きっと面白みが増してほしいと願っている.
キーワード:HAYABUSA2,深宇宙通信,Xバンド/Kaバンド,回線設計,TT & C
HAYABUSA2について述べる前に,深宇宙通信について話しておくべきように思う.深宇宙は,電波の領域では便宜的に高度200万km以上先の世界を指す.だから,その領域にいる対象との交信を何でも深宇宙通信と呼んで間違いはないが,技術的にはミッションの遂行に裏付けを与える通信でなければ意味がない.たまたま宇宙人から受け取ったメッセージは,深宇宙通信とは別物なのである.こう述べても,深宇宙通信自体になじみのない方にはぴんと来ないかもしれない.
見識ある方にも,深宇宙通信はとうに確立されて発展性のない技術と覚えられていたりする.確立された技術であるのは間違いないものの,発展性の部分については実はそうでもないのである.地上の移動体通信などと比べられやすいが,それらとは向いている方向やスケーリングが違っていて気付かれにくい.
深宇宙通信は,有限の鉱山資源から漏らさず余さず鉱石を回収することを目指しているように思える.だから,資源(この場合,帯域など)を求めて開かれた世界に挑戦的に進出する地上サービスに比べたら,通信速度など比べるべくもない.けれども,速度ということでは光通信の領域から見たら移動体通信の変化も小さく見えるのと同様,身近なインターネットから見て深宇宙通信の変化はきっとあってないように見えているだけなのだ.日常,何もないように見えている部分にミクロな世界があるように,深宇宙通信にも変化は確かにある.では,HAYABUSA2に話題を借りて,この一風変わった技術である深宇宙通信を紹介してみたい.
HAYABUSA2は,小惑星Ryuguからサンプルを採取して持ち帰るJAXAミッションである(1).初号機の小惑星Itokawaからのサンプルリターンを受けて,2号機として2014年12月3日に打ち上げられ,2020年12月6日,無事,玉手箱と呼んだカプセルを着地させた.ニュースで御存じの方は多いだろう.現在,届けられたサンプルの解析が進行中であり,宇宙機も新しい目的地へ向けて飛行している.
図1は,HAYABUSA2の飛翔中の軌道(太陽地球固定座標系:原点に太陽,座標(1,0)に地球)とその間の探査機距離の変化を表している.HAYABUSA2の活動に関連付けたフェーズごとの色分けを施してある.電気推進による加速フェーズ,Ryuguへ弾道で向かう遷移フェーズ,ミッションを遂行する近傍滞在フェーズ,そして地球へ帰還するフェーズである.通信距離は最大2.4au(用語),Ryugu滞在フェーズに最も遠い位置(地球とは太陽を間にして反対側同士の位置関係)にあり,この期間に重要ミッションを控え,多くの観測データを地上へ届けるべく回線速度要求は最も高くなる.
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