特集 2. 量子計算の効率的なシミュレーション

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量子機械学習

特集

     2.

量子計算の効率的なシミュレーション

Efficient Simulation of Quantum Computing

鈴木泰成

区切り

鈴木泰成 日本電信電話株式会社NTTコンピュータ&データサイエンス研究所

Yasunari SUZUKI, Nonmember (NTT Computer and Data Science Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Musashino-shi, 180-8585 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.11 pp.1142-1149 2021年11月

©電子情報通信学会2021

abstract

 量子計算を実用的な機械学習の効率化に応用するには,その振舞いを数値計算により調べる量子計算のシミュレータが不可欠である.ところが,一般に量子計算機は通常の計算機では効率的にシミュレートできないため,数値計算の遅さがしばしば研究開発のボトルネックとなる.本稿ではまず現実の量子計算機をシミュレートする素朴な実装を紹介し,これを基軸として量子計算のシミュレートを高速化する種々の手法を紹介することで,用途に応じどのような解析手法を選ぶべきかの指針を示す.

キーワード:量子計算,数値計算,計算機科学,計算量理論

1.量子計算のシミュレータと機械学習

 量子計算機(用語)は通常の計算機に比べ指数的な加速を実現し得るほぼ唯一の計算モデルである.このため,量子計算は基礎から応用にわたり様々な側面から長く研究されてきた.機械学習は量子計算の応用が有望視される分野の一つであり,いわゆるゲート方式の量子計算による応用としては,量子系の複雑なダイナミクスを時系列の解析に活用するリザバー計算(1),パラメトライズされた量子回路をモデルとみなして学習を行う教師あり機械学習(2),統計学において有用な確率分布からのサンプリングを量子計算で高速化するサンプリングアルゴリズム(3),重ね合わせを用いて少ない問合せで関数やデータセットの構造を特定する量子学習理論(4)などが挙げられる.

 これまでの量子計算の実用化に向けた研究開発の努力にもかかわらず,量子計算が実用的な機械学習の性能を向上させた例はいまだ報告されていない.実用的な量子計算機の開発や応用の実現が困難な理由の一つに,量子計算機特有の計算アクセラレータとしての事情がある.通常のアクセラレータの多くはベクトル演算や行列積といった演算の構造に着目し,その基本演算の速度を直接向上する.このため,状況が合致すれば小規模な計算でもアクセラレータが有用となる余地がある.一方,典型的な量子計算は量子論特有の操作を追加することで,解く問題が大きくなればなるほど加速度的に効率が良くなる,つまり計算量で漸近的な高速化がある量子アルゴリズム(用語)の実行を可能にする.その代償として,量子計算では足し算といった基本操作の速度やエラー率は総じて大幅に悪化する.このため,計算で量子計算が有用になるのは,悪化した基本操作の速度やエラー率を凌駕するほど,大きい問題に量子計算を適用し加速が得られる場合に限られる.したがって,量子計算機で有用な応用を実現するには大規模な問題での量子アルゴリズムの実行効率や大規模な実機の性能検証を行うことが重要となる(図1).

図1 量子計算と通常の計算機の計算時間の関係


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