オピニオン 大学の電磁気学教育について――マクスウェル方程式を土台に改革を――

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Vol.104 No.12 (2021/12) 目次へ

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オピニオン 大学の電磁気学教育について――マクスウェル方程式を土台に改革を―― Elementary Course of Electromagnetism: Reformation Based on Maxwell Equations

  • 著者写真
    小宮山 進
    東京大学大学院総合文化研究科
    広域科学専攻
    E-mail skomiyama@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
  • 著者写真
    寳迫 巌
    国立研究開発法人情報通信研究機構
    Beyond 5G研究開発推進ユニット
    E-mail hosako@nict.go.jp
  • 著者写真
    生嶋健司
    東京農工大学工学部
    生体医用システム工学科
    E-mail ikushima@cc.tuat.ac.jp
  • 著者写真
    竹川 敦
    メディカルフォレスト予備校
    E-mail tkcolor0001@hotmail.com
     

1.は じ め に

 電磁気学は大学の基礎科目の中で特別に重要な科目である.エレクトロニクスが日常生活の隅々にまで浸透し,ICTやAIが社会全体を大きく変えつつある現在,その重要性は今後ますます高まってゆくだろう.従来,電磁気学は抽象的概念やベクトル解析が必要なために学生が苦手な科目とされてきたが,個別項目の整理や説明の工夫によって(1)(3),現在では分かりやすく書かれた教科書が多数出版されている.講義に関しても,分かりやすくて学生に評判が良い授業をしている,と自信を持っておられる先生方が大勢おられるだろう.このように,大学内部の視点に限れば電磁気学教育の難しさは減ってきたように見える.しかし,社会に対する大学教育の役割,という視点からはむしろ問題が増大しつつあるように思える.個々の学習内容が難しいという昔ながらの問題より,むしろ,大学で習った知識がいざとなると現場で余り役に立たない,という問題が健在化している.先輩技術者による電磁気学の学び直しの記事が技術系の雑誌やネット上のブログに繰り返し現れる事実がそれを物語っている(4)(6).筆者らは,この問題を,大学における現行の電磁気学教育が戦後急激に進展した技術社会にそぐわなくなっており,現場の理工系技術者が必要とする内容との間にミスマッチが生じているためと考えている.

 初等電磁気学の教育法には,クーロンの法則に始まって歴史的経過をたどって最後にマクスウェル方程式にたどり着く方法と,基本法則のマクスウェル方程式をまず示してから演繹的に解説する二つの方法がある.従来,初学者に適切なのは前者とされ,その枠組みが標準的な教授法として戦後長く続いてきた.このやり方は,場の概念やベクトル解析の理解が学生にとって難しい点を最大限に考慮する反面,電磁気学全体の論理構造を把握することへの配慮が希薄である.一方で,後者のマクスウェル方程式から始める講義形態は,全体の論理構造の把握を最重要視する.難しいとされてきたその方法が最近見直されて草の根的に広がりつつある.日本全体の授業数で見るとまだ数%にすぎないがじわじわと増加傾向にあり(注1),東京大学ではおよそ30%に達している(注2).筆者らは,学生に電磁気学を講義してきた教師としての体験,及び研究・開発の現場で電磁気学を実践してきた技術者・研究者としての経験から,最近のこの動きが,学生に分かりやすい論理明快な講義につながり,かつそれが,大学の電磁気学教育が今まさに現代社会から要請されている変革だと考えている.

 本稿では,現状の標準的な教育方法のどこに問題があると考えるのか,また,マクスウェル方程式から始める新しいやり方が初学者に対してどのように可能で有効なのか,について記す.数年前,同様な主旨の記事を物理学会誌その他に著し(7),(8),マクスウェル方程式から始める講義の実践例も報告した(9).しかし現状は,まだまだ新たな方式に対する誤解が多いように思われる.本稿を通して,幅広い教師・研究者・開発現場の技術者・大学院生・大学生の方々に問題を考えて頂ければ幸いである.

2.クーロンの法則から始める現行教授法の落とし穴


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