小特集 農業とエレクトロニクス 小特集編集にあたって

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Vol.104 No.2 (2021/2) 目次へ

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小特集

農業とエレクトロニクス

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 庄司雄哉

 ロボット技術やICTを活用して農業の生産性と品質の向上を目指す「スマート農業」という言葉が広く使われるようになったのは決して最近のことではないが,昨今のIoT,AIといった情報化社会の変化もあいまって,その中身は様々な進展を見せている.単なる機械化や自動化ではなく,環境変化をセンシングして水やりや施肥を制御するシステムや,作物の生育状況をモニタリングしデータ化する研究開発が広がっている.これまで生産者の経験や勘に依存していた部分を数値化することで,工学的に生産性と品質の向上を実現することが可能になる.そこでは,もちろんAI等を活用したデータ処理が有用であるが,元データをどういう手法でどういう物理量を収集するのかもまた重要であり,新しいセンシング技術が求められる.そのため,コストや消費電力の観点からもエレクトロニクスの寄与するところは大きい.

 1章では,土壌水分計測のためのセンサシステム及びドローンを使った生育量モニタリングのための個体識別について,川原圭博氏らに解説頂く.土壌水分センサではより低コストで実装しやすいセンサと機械学習を用いたモデリングの例を紹介頂く.生育モニタリングでは,果樹などの環境や個体間でばらつきの多い対象をモニタリングし判別する必要があり,レーザレーダ(LiDAR)の利用,計測データの系統的な処理についての取組みを紹介頂く.

 2章では,環境データや生産管理データの利活用に向けたデータ収集と管理について,大山克己氏らに解説頂く.我が国の企業や自治体での開発例に加えて世界各国の動向も合わせて紹介頂く.また,環境や作物のデータだけでなく,生産管理つまり施設内の従業員の管理による生産性向上についても紹介頂く.労働人口の減少を見据えると,農業の非熟練者でも従事可能な管理システムが重要になるであろう.

 3章では,果実生産の例を取り上げたセンサやロボット等からの情報の流れについて,近藤直氏に解説頂く.農業用ロボットには,挿し木等の苗生産を行うもの,薬剤散布を行うドローン,収穫や選果を行うものなど多岐にわたる.特に後者では,鮮度,傷や腐敗の判定のためのセンシング技術と判別処理の実施例について紹介頂く.

 そして4章では,スマート農業の極致とも言える宇宙農業について,鹿島光司氏らに解説頂く.月面基地での稲作にフォーカスし,まず地上での稲の栽培様式と自動化を俯瞰し,次にそれを月面環境で実施するにあたっての課題や工夫を紹介頂く.宇宙環境ではエネルギーや水資源もさることながら,特に人的資源が限られるため,リモートセンシング技術や機械の自動化のシステム構築が重要な鍵となるであろう.

 本会会員のエレクトロニクス分野の読者は,非常にとがった独自技術を有しておりその新しい応用先を模索している方も多いと思う.本小特集は,これからのスマート農業に潜在する需要や課題を共有し,新しいシナジーを生むきっかけになることを期待して企画したものであり,本小特集がその一助になれば幸いである.

 最後に,お忙しい中,本小特集の原稿を御執筆頂いた執筆者の皆様,また,小特集編集チームの皆様,学会事務局の皆様に深く感謝致します.

小特集編集チーム

 庄司 雄哉  竹中  充  岸田  亮  佐藤 具就  谷尾 真明  田能村昌宏  德田  崇 


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