小特集 1. 農業生産者の勘と経験を補完する計測技術

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小特集 1.

農業生産者の勘と経験を補完する計測技術

Measurement Technology That Complements the Intuition and Experience of Agricultural Producers

川原圭博 仙田 薫

川原圭博 正員 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻

仙田 薫 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻

Yoshihiro KAWAHARA, Member and Kaoru SENDA, Nonmember (Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.2 pp.104-109 2021年2月

©電子情報通信学会2021

Abstract

 本稿では,農業生産の現場において,熟達した農家が培ってきた栽培のノウハウを情報通信の力で形式知化し,更にその知識を流通させるための様々な取組みについて紹介する.具体的には,ベビーリーフなどの葉物野菜の収穫量を増やすために土中の水分量を計測し,水やりをコントロールする試みや,樹勢から収穫量を予測するためにドローンを用いて果樹の枝ぶりを評価する方法について紹介する.

キーワード:土壌水分センサ,ドローン,スマート農業,ベイズ最適化

1.は じ め に

 スマート農業とは,情報通信技術や自動化ロボットなどを用いて,農作物の栽培や収穫に関わる作業を行う方法である.農業生産の現場の一連の栽培工程におけるそれぞれの作業は,複雑で,機械化が難しく,手作業が占める工程が多い.また,農業従事者の高齢化や労働力不足が進んでおり,2015年の調べでは,農業従事者の平均年齢が67歳で65歳以上が6割以上を占めるとされている(1).更に昨今では,COVID-19の影響により,外国人技能実習生の来日が中断されていることが現場の労働力不足に更に輪をかけている.農業者が減少する中,日本の農地はその地形などから,アメリカやフランスのような大きな土地の自動化,機械化を進めることが難しい.スマート農業はこうした時代の要請に応えるための一連の取組みである.昨今のスマート農業は,機械による自動化や省力化に加えて,情報センシング技術を活用することで,よりきめ細やかな栽培を行ったり,データを活用することでこれまでは勘と経験を頼りに行ってきた様々なパラメータ調整を自動化するところに単なる機械化と大きな違いがある.

 先端技術を活用することで,これまでにない大規模な農業経営を可能にしたり,若者や女性など新たな農業の担い手と労働力の確保につながるという大きな期待がある.

2.スマート農業の分類

 農林水産省では,スマート農業等に関する技術等を募集し,198の技術の提案をスマート農業技術カタログとして取りまとめ,その内容を以下の五つに分類している(2)

経営データ管理:

 資材や売上,労務等の管理を行う技術.農作物の収穫量や売上,作業者の作業記録を様々な角度から可視化することで,生産・労働実績を振り返ったり,作業の段取りをオンラインで一元管理したりするサービスが例として挙げられる.

栽培データ活用:

 気象や熟練農家のノウハウ等の栽培に関するデータを活用する技術.栽培環境の日射,気温,湿度,土壌環境情報,成長量,収穫量などをシステムで記録し,施肥,水やり,剪定,摘果など,栽培に伴う様々な作業を記録し,生育状況の記録・予測・改善・異常検知などを行うサービスが例として挙げられる.


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