小特集 3. スマート農業におけるセンシング技術

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小特集 3.

スマート農業におけるセンシング技術

Sensing Technologies in Smart Agriculture

近藤 直

近藤 直 京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻

Naoshi KONDO, Nonmember (Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kyoto-shi, 606-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.2 pp.115-122 2021年2月

©電子情報通信学会2021

Abstract

 30年後には世界人口が約20億人増加する一方で,日本の農家人口は現在の1/3にまで減少するとの予測がある.そのような状況下で世界の食料―環境のトレードオフ問題に立ち向かう必要があり,そのための農業技術革新が叫ばれている.スマート農業はその切り札の一つであり,ロボットやAIを用いて労働力不足を解決すると同時に生産性を高め,正確な情報に基づき最適な作業と農業資材の投資により,最高の収量と品質を有する農産物を得て問題解決を図る.本稿では,これまで開発された技術の一端であるロボットやセンサの概要を工学の立場から述べる.

キーワード:スマート農業,ロボット,分光,画像

1.は じ め に

 2045年前後に90億人を超えると予想される世界人口は2020年で77億人を超え,今後20億とも言われる人口増に対する食料供給及び環境保全のため,SDGs(Sustainable Development Goals)を目標とする持続可能な世の中へ向かってかじ取りをする必要がある.ただ,我が国の農業は長年にわたって新規参入者が十分に増加しなかったことから,農家の平均年齢は67歳に達しており,将来現在の農家人口の1/3となる50万人程度にまで減少するとも言われている.そこで,これまでの精密農業に加えて,新技術をふんだんに取り入れたスマート農業にかじ取りをすることにより,日本の優れた農業技術を,日本国内のみならず,世界,特にアジアの食料生産のために発展させることが急務となっている.

 農業分野では1950年から1960年代に動力耕うん機が導入されたことを皮切りに機械化が行われ始め,1970年代までにトラクタ,コンバイン,田植え機が大きく普及した.1980年代にCCDやMOSの固体撮像素子を用いたカメラが販売されるようになると,1990年代から農業分野にも使われるようになり,農作物や農産物の情報収集,等階級選別するためのセンサとして当たり前になった.同時に,近赤外分光法が実用化され,分光器と多変量解析による農産物の内部品質計測が可能となった.更に,近年の短波長LEDの開発により,種々の生物に対する紫外光励起の蛍光画像が得られ,これまで検出困難であった微小な傷までも検出可能となった.これらの技術により,農産物の内部品質や長期保存性といった新たな付加価値が与えられる時代になった.本稿では特にその蛍光画像システムと農産物検査の例を挙げ,人類の健康で豊かな暮らしに貢献するSDGsに合致したセンサについて言及する.

2.スマート農業とは

 スマート農業とは2013年から使われ始めた言葉で,農林水産省のホームページによれば,「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し,超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/)とある.これまでに「精密農業」のコンセプトが1990年代からSSCM(Site-Specific Crop Management)として議論され始め(1),センサ技術等により圃場のマッピングでばらつきを把握・解析し,最小限の投資(最適な施肥や農薬散布等)で最大の利益(高収量,高品質の生産物)を得る農業が目標とされてきた.


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