1．背　　　　　景

　エジプトは，北アフリカ，中東，イスラム世界地域での大国であり，世界的にも中等レベルの強国であると考えられている⁽¹⁾．中東は21世紀中に世界最大の経済圏の一つになると予想されているが，その中でもエジプト経済は最大かつ最も多様性に富むものである．その経済規模はアフリカ内で3番目に大きなものであり，名目GDPで世界40番目，購買力平価で19番目の位置にある．国際通貨基金（IMF）はその年次報告で，エジプトが世界の中で経済改革を最も進めている国の一つであると評価している⁽²⁾．エジプトの有線・無線通信産業は，1854年にカイロとアレクサンドリアを結ぶ最初の電信線が敷設されたことに始まる．最初の電話回線は1881年にこれら両都市間に敷設された⁽³⁾．エジプト政府は国内IT分野の発展を推進する方針を掲げ，1999年9月に技術ルネッサンスへ向けた国家プロジェクトを発表した．過去数年の間にIT分野は急拡大し，多くの新興企業が北米やヨーロッパへアウトソーシングサービスを提供している．アウトソーシング先にはMicrosoftやOracleのような大企業のほか，多くの中小企業が含まれる．政府の後押しを受け，エジプトの新起業家がIT分野を活気あるものにしている．エジプト首相はアル・アハラーム経済会議で講演し，ディジタルトランスフォーメーションに取り組む国の覚悟を以下のように表明している．「エジプト政府は，総合的かつ持続可能な経済と社会を発展させるための柱として，ディジタル社会へのトランスフォーメーション，電子決済，ディジタルインクルージョンに着目し，その推進には実践的なアプローチを取っている．これは『エジプトビジョン2030』達成のための政府行動計画と，行政改革総合計画の主要目標の一つである．政府は，国民がどこにいても様々な手段を通して政府の電子サービスを容易に受けられるように，手続きの簡素化とサービス開発に力を入れており，それにより国民の生活の質と政府サービスへの満足度の向上を目指している．」⁽⁴⁾