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ICTによる農林畜産業への取組――回路とシステムの観点から―
小特集 4.
超精密放牧のためのモニタリング技術開発
Monitoring Technology Development for Ultra-precision Grazing
Abstract
筆者らのプロジェクトでは,持続可能な畜産・酪農の推進に貢献するために,放牧を活用しながら,生産者にとっての収益,家畜のアニマルウェルフェアを全て向上できる技術と仕組みの構築を目指している.生産者と家畜(牛)の関係に着目すると,コスト削減とアニマルウェルフェア向上に必要不可欠な監視業務を効率化することが鍵であることから,放牧でも利用可能な牛用モニタリングシステムの実現を目指している.本稿では,筆者らの構想の詳細と,牛モニタリングにおける課題並びに最近の研究成果を紹介する.
キーワード:IoT,エッジAI,エッジコンピューティング,アニマルウェルフェア,精密放牧
国際連合は,世界の人口が2050年に97億人に達し,更に2018年の55%に対して2050年には約70%の世界人口が都市部に暮らすと予測している(1).一般的な傾向として,都市居住者の所得は地方居住者よりも高く,所得の向上により生活水準が改善するに従って食生活が植物性食品から動物性食品にシフトする.したがって,今後,世界の畜産物需要は高まり,2010年に対して2050年の食肉・畜産品の消費量増加率は世界全体で173%,発展途上国で209%に達すると予想されている(2).既に,需要を満たすために,低い生産コストと大量生産を両立することを目的として,多数の家畜を高密度で飼育する集約的生産に傾倒していっている.国際連合食糧農業機関(FAO)は,「増大する人口増加,都市化に対応した畜産物提供には,現在の集約的生産に代わる技術的または経済的代替手段はない.」と指摘する一方で,「今日の集約的生産システムは,環境被害の懸念,疾病を増大させる可能性がある.」と警告している(3).つまり,我々は,必ず生産性・経済性を向上させなければならないという制約の下で,正常な資源循環と倫理性も両立させる必要があるという難題に直面している.まさに,持続可能な畜産・酪農の在り方が問われており,SDGs 12番目の「責任ある生産と消費」についても真正面から取り組まなければならない状況にある.
環境問題に対処するために,これまでに,温室効果ガスの発生制御の研究(4)や,自給飼料増産と飼料用米の利用の推進(5)など多くの取組がなされてきている.畜産・酪農が永続する条件は第1に牧草や牛の再生産であり,家畜頭数と農地のバランスの上に成り立っている環境保全型の方式である「放牧」(6)の活用は避けて通れない.更に,畜産の倫理性に目を向けると,世界的なスタンダードになりつつある「アニマルウェルフェア(AW)」の推進が不可欠である.しかしながら,これまで国内において,これらは,必要性や重要性が認められながらも技術的かつ経済的理由により敬遠されてきている(7).そこで,筆者らは,畜産において最もインパクトが高い牛を対象として,畜産・酪農において資源循環(放牧対応)・高倫理性(AW対応)・高経済性の全てを両立させるための技術・仕組み(図1)の実現を目指している.そのシーズとして,技術的・経済的ハードルを下げ生産者を支えるためのITを活用した超精密放牧技術を研究開発している.第1ステップとして,放牧における監視業務や,アニマルウェルフェア評価に係るコストの削減が鍵であるため,放牧に対応した牛モニタリングシステムの開発を進めている.本稿では,放牧とAW,これらのIT化の動向について概説した後,筆者らの構想の詳細と最近の研究成果について紹介する.
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