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小特集
多様化する大学教育
――博士課程教育リーディングプログラム――
山中直明 塩田茂雄
電子情報通信学会の学生員の多くは,研究者かエンジニアを目指している.そのエンジニアの状況は,この10年,20年で大きく様変わりをしている.高度成長時代は,大量生産によりコストを削減することで製造業が活躍した.この時代の理工系学生のロールモデルは,大学を出て企業でエンジニアになることであった.比較的,大学での研究に直接関係がない仕事で活躍することも多かったと思う.生涯雇用を前提に,大企業で働くことを目指す大学生は少なくなかった.大学院教育も当時はスペシャリストとしての教育であり,特に博士課程は大学教員や研究所での研究者を目指すものであったと思う.
一方,高度成長時代を経て,日本のビジネス形態も大きく変わり,商品の寿命が短くなり,更に中国をはじめとするグローバル化が進んで,低価格大量生産ではなくサービスや高価値への移行を余儀なくされた.また,働き方の多様化も進み,必ずしも生涯雇用ではない働き方を選択し,ベンチャーやコンサルタントといった新しいビジネススタイルも世界的には進んでいる.大学院教育はそれに応えるように変化し,グローバルで総合的な俯瞰力を持つ人材の必要性が高まっている.そのような背景の下,文部科学省は高度高等教育の在り方の再構築と理系をベースとした高度人材の育成を目指し,大学院教育の改革のための「博士課程教育リーディングプログラム」を推進してきた.
文部科学省のHPには博士課程教育リーディングプログラムについて以下の説明がある.「博士課程教育リーディングプログラムは,優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため,国内外の第一級の教員・学生を結集し,産・学・官の参画を得つつ,専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援し,最高学府に相応しい大学院の形成を推進する事業です」.
この目標を達成するため,博士課程を設置する国公私立大学において,平成23年度から3年間,計62のプログラムが採択され,広く支援が行われた.支援を受けたプログラムでは,最大7年間,自学内資金等を用いて,博士課程教育改革のための取組が行われた.
本小特集では,博士課程教育リーディングプログラムの全体像を紹介する最初の記事の後,採択された62のプログラムの中でも,本会との関連が強く,かつ特徴を持ったプログラムを三つ記事として紹介する.
紹介する最初のリーディングプログラムはお茶の水女子大学の「「みがかずば」の精神に基づきイノベーションを創出し続ける理工系グローバルリーダーの育成」であり,記事は吉田裕亮氏に執筆頂いた.このプログラムは女性理工系博士という,これからの多様化した社会を創造する最も重要な人材の育成を目指しており,記事では,プロジェクトベースを用いた研究教育について詳しく述べられている.
二つ目のリーディングプログラムは山形大学の「フロンティア有機材料システム創成フレックス大学院」であり,記事は東原知哉氏,落合文吾氏,古澤宏幸氏に執筆頂いた.山形大学は御存じのように有機EL等の最先端テクノロジーの世界的拠点であり,記事からはその特徴を十二分に生かして創造性に富む人材教育を行っていることがうかがえる.
最後のリーディングプログラムは東京工業大学の「グローバルリーダー教育院」であり,記事は佐藤勲氏に執筆頂いた.このプログラムは,リーディングの中では特にグローバルなリーダー教育に重点を置いている点に特徴があり,東京工業大学という理工系総合大学の枠を超えた高度人材教育が行われている.
最後に,この小特集をまとめるにあたり,御尽力を頂いた文部科学省の皆様,お茶の水女子大学,山形大学,東京工業大学の三つのリーディングプログラムの関係者の皆様に深謝する.
小特集編集チーム
石橋 圭介 山中 直明 塩田 茂雄 川端 明生 川喜田佑介 荒木 徹也 石原 智宏 井上 中順 井口 寧 大島 正資 笠原 正治 小林 由枝 志岐 成友 高田 潤一 中村 祐一 野村 晶代 茂呂征一郎 八木 秀樹 渡辺 正裕
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