解説 情報指向ネットワークの最新動向[Ⅲ・完]──ICNの利活用と実証実験──

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Vol.104 No.6 (2021/6) 目次へ

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 解説 

情報指向ネットワークの最新動向[Ⅲ・完]

――ICNの利活用と実証実験――

Recent Trend of Information-centric Networking [Ⅲ・Finish]: Application and Proof-of-concept of Information-centric Networking

田上敦士 植田一暁

田上敦士 正員 (株)KDDI総合研究所次世代通信方式グループ

植田一暁 正員 (株)KDDI総合研究所次世代通信方式グループ

Atsushi TAGAMI and Kazuaki UEDA, Members (Future Communication System Laboratory, KDDI Research, Inc., Fujimino-shi, 356-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.6 pp.590-595 2021年6月

©電子情報通信学会2021


目    次

[Ⅰ]ICNの仕組みと実用化に向けた課題(3月号)

[Ⅱ]オープンソースCeforeがもたらす新しいネットワークサービスの可能性(4月号)

[Ⅲ・完]ICNの利活用と実証実験(6月号)

A bstract

 ICN(Information-centric Networking)は新しいネットワークの考え方であるがゆえに,その考え方をどのように利活用すればよいかは直感的に理解しにくい.当初は,ネットワーク内のキャッシュがICNのメリットとして考えられていたが,最近ではMEC(Multi-access Edge Computing)やIoT(Internet of Things)といった新しい技術領域への適用に対するメリットが積極的に議論されている.本稿では,ICNの利活用の理解を深めるために,ICNのアプリケーションと,我々が行ってきた実証実験について紹介する.

キーワード:ICN,テストベッド,実証実験,アプリケーション

1.は じ め に

 ICN(Information-centric Networking)は,エンドデバイス間を「つなぐ」ことを目的としたネットワークから,コンテンツを「運ぶ」ことを目的としたネットワークへのパラダイムシフトである.しかしながら,そのような新しい「考え方」が実際にどのように役に立つのかは分かりにくい.ICNの特徴的な機能としては,名前によるルーチングや,ネットワーク内キャッシュの活用,セッションレス通信などが挙げられる.このような機能をどのようにアプリケーションやサービスに適用させるかを明確にする必要がある.

 アプリケーション自体は何も変えず,ICNを用いて効率の良いネットワークを構築するという考えもある.しかしながら本稿では,ICNの機能を利活用した「ICNならでは」のアプリケーションを提供することに焦点を当てる.近年,ICNの適用先として,IoT(Internet of Things)やMEC(Multi-access Edge Computing)といった新しいサービスやネットワークが考えられている.これらに対して「ICNならでは」の機能を活用することにより,既存のIPネットワークでは困難なアプリケーションが提供可能となる.

 本稿では,ICNの具体的なアプリケーションと,我々が実施してきた実証実験について紹介する.本稿を通じて,ICNの機能がどのように使われるのかのイメージを伝え,ICNの新しい「考え方」の理解に資することができればと考える.

2.動画像のストリーミング配信

 ICNの特徴的な機能としてまず挙げられるのが,ネットワーク内キャッシュによる冗長トラヒックの削減である.特に動画像コンテンツは,トラヒック量も多く複数人が視聴するため,キャッシュによる効果が大きく,ICNの典型的な適用先として広く検討されている.例えばCiscoは,Wi-FiとLTEのマルチパスで4Kビデオストリーミングのデモを行っており(1),我々もビデオストリーミングにおいて端末間のフェアネスを考慮することでキャッシュヒット率を向上させる手法のデモを行った(2)


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