電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
加藤修三君は1972年3月に北見工業大学工学部電気工学科を卒業,1977年3月に東北大学大学院工学研究科電気及び通信工学専攻博士課程を修了され,同年日本電信電話公社電気通信研究所に入社,衛星通信及びPHS通信の研究開発に従事し,1995年に退職しました.その後,日米で起業,副社長・社長等を歴任,2006年には独立行政法人情報通信研究機構プログラム・ディレクタ,2008年には東北大学電気通信研究所教授,2015年には東北大学名誉教授となり,現在もなお電子情報通信分野の発展に尽力されています.
同君は,1980年代初頭にASICの開発データを直接FPGA設計データに変換し,リワークを最小化する開発手法を世界に先駆けて開発し,現在も用いられているASIC開発手法の先駆となりました.本開発手法を用い,種々の衛星通信用時分割多元接続(TDMA)装置に汎用的に適用可能な6種TDMA ASICの開発に成功,従来装置の約1/5のハードウェア規模化・高安定動作化を達成し,衛星TDMA通信システムの国内通信網への適用に道を開きました.また商用ASICとしては世界初の2V動作PHSベースバンドASICの開発・消費電力の1/2化に成功し,この分野では世界初の同期検波及びディジタル音声誤りによる雑音の除去方式の発明により計6dB他社製品に優る受信感度のASIC/携帯端末を実現し(1994年時),多くの企業への技術供与を通じ,PHSビジネスの発展に貢献しました.
日本発技術のIEEE標準化のため,2006年にコンソーシアムを21(日本:20)機関で構築し,更に海外機関の参加を得,計39の国際機関を統括し,日本機関が最初から最後までやり遂げた最初の標準化を2009年に達成しました.本過程で,提案した「コモン・モード」は,頻繁に起きていた二陣営間の対立を避けることに大きく貢献,その後の多くの標準化で取り入れられ,標準化の迅速化が図られました.また,この成功により,日本機関の地位は大きく向上し,その後のIEEE標準化の大きな礎となりました.
学会活動では,本会編集理事として論文電子投稿システムの構築・論文投稿費用1/2化(1995年時),短距離無線通信研究会の立上げ(2011年)等に貢献し,国際的にはIEEE COMSOCの論文編集委員,衛星及び宇宙通信委員会委員長,IEEE Computer SOC.の標準化802.15.3c副委員長等を歴任し,1991年には無線通信国際会議,PIMRCをCo-founderとして立ち上げ,論文の質・参加者数共に世界のトップ無線国際会議へと育て,グローバルな研究開発推進に貢献しました.これらの貢献に対して,本会から功績賞,論文賞,IEEEから「衛星通信・卓越サービス」賞,「スタンダード・アソシエーション」賞(ミリ波通信ほか3回),また本会及びIEEEからフェローの称号が授与されています.
以上のように同君が本会並びに国際学会,企業並びに大学における重要な職責を担われ,様々な活動を通して本会の運営及び電子情報通信分野の学術及び産業の発展,後進の育成と日本の活性化に寄与された功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.
喜連川 優君は,1978年に東京大学工学部電子工学科を卒業,1983年に同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程を修了されました.同年に同大学生産技術研究所の講師に就かれ,1984年に助教授,1997年に教授に昇進されました.2010年から同大学地球観測データ統融合連携研究機構長を務められ,2013年から国立情報学研究所の所長を務められています.2021年4月には東京大学特別教授に就任され現在に至っています.
同君は今日のビッグデータの時代を予見し,1980年代からデータベースシステムの高性能化の研究を進め,数多くの先駆的かつ顕著な研究業績を挙げ,様々な応用分野を開拓してこられました.米国がビッグデータイニシアティブを立ち上げる8年も前に,情報爆発という情報系では最も大きな特定領域研究の代表を務めるなど,我が国のデータ工学分野を強力にけん引してこられました.
関係データベース演算が著しく低速であった1980年代初頭,同君は関係演算の高速実行方式であるハッシュジョインの研究を進め,動的ステージング等種々の方式を提案し,共有メモリ,分散メモリ,分散共有メモリ等の多様な並列マシンにおいて高い性能を実現しました.今日広く利用されている関係データベースシステムのほとんどが本方式を採用しておりWikipediaにもGRACEハッシュなる名称で記載される等,基本的な演算方式として定着しています.これらの高性能化に関する多大な貢献に対し,データベース分野における最高峰の賞であるACM SIGMOD E. F. Codd Innovations Awardをアジア圏で初めて受賞しています.2000年代初頭には,ビッグデータ時代に向けて非順序実行原理と名付けた独自のデータベース処理方式を創案しました.これはCPU,ディスク等の資源が同一の環境下で,ストレージ入出力を再帰的に非同期化するだけで,飛躍的な性能向上を達成したもので,従来比約1,000倍の高速化を達成しました.日立製作所と共同で当該方式を実用化し,世界標準ベンチマークTPC-Hにおける最大規模の100TByteクラスに世界初のエントリーを果たす快挙を成し遂げました.当該方式は,ディスクのみならずフラッシュメモリでも高い性能を示し,Hadoop等の非関係データベースにおいても非常に有効であり,現在もこの斬新な方式の研究を継続しておられます.
近年では,非順序データベースを用い医療等の社会課題に取り組まれています.約2,000億レコードから成るレセプトデータの処理を数分で実行可能とする画期的なシステムを構築し,高血圧学会,糖尿病学会等多くのユーザに利用されるに至りました.地球環境分野においては,1980年代から巨大データプラットホームDIASの構築を推進し,現在約50PByte,ユーザ数は約8,000名まで成長するに至りました.リアルタイムの浸水予測やダム事前放流システムをはじめ多くの応用が生まれると同時に,ミャンマー,スリランカ等の国々に対し洪水・干ばつ対策のサービスを提供しています.
これらの業績により,本会のみならず,情報処理学会,IEEE,ACMのフェロー,中国コンピュータ学会栄誉会員に選出されるとともに,紫綬褒章,レジオンドヌール勲章シュヴァリエ,日本学士院賞,IEEE Innovation in Societal Infrastructure Award,C&C賞,全国発明表彰「21世紀発明賞」等,数多くの賞が授与されています.
以上のように,同君の電子情報通信技術の発展並びにその社会課題解決への展開についての功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.
村瀬 洋君は,1978年に名古屋大学工学部電気工学科を卒業後,同大学院工学研究科電気工学専攻に進学し,1980年に修士課程を修了されました.その後,当時の日本電信電話公社(現在の日本電信電話株式会社,NTT)に入社され,1987年に「オンライン手書き文字図形認識に関する研究」で工学博士を取得されました.2001年から2003年までNTTコミュニケーション科学基礎研究所の部長を務められた後,名古屋大学大学院情報学研究科の教授に就任され現在に至っています.
この間一貫してパターン認識並びにコンピュータビジョンとそれらの応用に関する研究開発に取り組まれ,これらの分野の進展に大きく貢献されてきました.1992~1993年の1年間,米国コロンビア大学コンピュータ科学部に客員研究員として滞在し,「パラメトリック固有空間法」と呼ばれる機械学習ベースで三次元物体認識を行う手法の先駆けとなる技術を開発されています.この手法を応用した研究はIEEEの中でもh-indexの高い国際会議CVPRでBest Paper Awardを1994年に受賞し,更にこの一連の研究成果は現在までに合計7,000回以上の引用があるなど,大変インパクトが高い研究として世界中で広く認知されています.
帰国後は映像や音などの時系列信号を対象としたパターン認識技術の研究開発に取り組まれ,「アクティブ探索法」と呼ばれる音や映像を圧縮して高速に照合する技術を開発されています.この技術はソニー株式会社と共同で開発した楽曲検索サービスの基本技術として重要な役割を果たすとともに,テレビ放送におけるCM放送確認を自動化するための技術や,音楽や映像などの著作権管理を行うための技術として大きな役割を果たしています.
大学に移られてからは,パターン認識並びにコンピュータビジョンの基礎研究を継続されるとともに,監視カメラを用いた人物認識,自動運転や高度交通システム(ITS)における環境理解技術,などの実応用を見据えた研究開発にも取り組んでこられました.この取組の一貫として,2013年のIEEE ITSS Nagoya Chapterの設立に尽力され,初代のChairを務められています.また,名古屋大学COI「人がつながる“移動”イノベーション拠点」ではモビリティの自動運転で重要な役割を担う環境理解の研究開発リーダーを務められ,多くの企業と協同しながら多くの成果を上げられています.
同君はこれらの業績により,本会のみならずIEEE,情報処理学会からフェロー称号を授与されるとともに,文部科学大臣賞,前島密賞,紫綬褒章,を筆頭に論文賞や国際会議ベストペーパー賞など数多くの受賞をされています.また,IAPR理事,国内・国際会議における実行委員長等の要職を務められ,パターン認識並びにコンピュータビジョンの研究コミュニティの発展にも大きく貢献されてきました.
本会においては,パターン認識・メディア理解研究専門委員会委員長,同顧問,本会理事,情報・システムソサイエティ会長を歴任し,2018年に本会功績賞を受賞されました.
以上のように,同君は我が国におけるパターン認識並びにコンピュータビジョンの分野における先駆者としてこれらの分野を強くけん引してこられました.同君の電子情報通信分野の発展並びに産業分野に対するこれらの技術の展開についての功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.
守谷健弘君は1980年3月に東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了され,同年4月に日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社されました.1989年にはAT&Tベル研究所の客員研究員,2002~2005,2011~2014年には東京大学大学院連携講座客員教授なども務め,2007年にはNTTフェロー,守谷特別研究室長に任じられています.また1989年に東京大学から学位を授与されています.
同君はこれまで40年以上にわたり,音声音響信号の高能率符号化の研究開発に携わり,多数の先駆的な研究成果を創出してきました.同君をリーダーとするチームの技術は国際標準化への提案や普及活動などを通じて,第2,第3,第4世代の携帯電話,低ビット音楽通信,ひずみのない音楽配信などに応用され,多様な通信サービスの実現,高品質化,経済化に多大な貢献をしています.
1980年代のディジタル移動体通信方式に向けて,同君らのチームは「共役ベクトル量子化法」や「ピッチ同期雑音励振法」に代表される数多くの独創的な要素技術を考案し,1993年のPDCハーフレートの標準化にPSI-CELP方式を提案しました.この方式は従来比で情報量を半減できる唯一の方式として採用され,携帯電話の普及に貢献しました.これらの要素技術に,同君らの新たな考案を加え1996年に勧告されたITU-T G. 729 CS-ACELP方式は,IP電話に必須の音声符号化方式の一つとして,世界に普及しています.
音声符号化で培った技術も利用して1995年に考案された低ビット音響符号化方式TwinVQは,1998年にマイクロソフト社の初期の音楽配信に採用されるなど,ネットワークと連携した携帯音楽プレーヤの世界的先導となりました.1999年にはISO/IEC MPEG国際標準にも採用されています.
2000年にはひずみが生じないロスレス符号化の標準規格化を提案し,2005年にMPEG-4 ALS(Audio Lossless)規格を完成させました.この規格は日本の4K/8K超高精細度テレビ放送の高音質音声サービス用符号化として,ARIB標準と総務省令に規定されたほか,ハイレゾ音声と高精細映像コンテンツ配信サービスでも利用されています.また,電話音声用ロスレス符号化(ITU-T G. 711.0),ISDN電話を代替する低遅延符号化,ワイヤレスマイク用の高圧縮低遅延符号化などの開発にも貢献しました.
更に同君らのチームは,3GPP EVS標準規格を国際共同開発の下に2014年に完成させました.EVS規格は第4世代の符号化として2016年から世界中で利用されて高品質通話に貢献しています.
同君は本会編集出版の単行本,知識の森,100年史,マイルストーンの執筆や論文誌編集委員として貢献し,本会の学術奨励賞,論文賞,業績賞,小林記念特別賞,功績賞,基礎・境界ソサイエティFundamentals Reviewベストオーサー賞をはじめ,紫綬褒章,IEEE James L. Flanagan Speech and Audio Processing Awardなど多数の賞を受賞しています.また,本会フェロー,IEEE Life fellow,日本音響学会名誉会員の称号を授与されています.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であることから,本会の名誉員として推薦します.
安浦寛人君は,1978年に京都大学大学院工学研究科修士課程(情報工学専攻)を修了し,その後,1980年から京都大学工学部助手,1986年に同電子工学科助教授を経て,1991年から九州大学大学院総合理工学研究科情報システム学専攻教授に就任されました.2001年に九州大学システムLSI研究センターを設立し,2008年3月までセンター長を兼任されました.その後,2008年10月から九州大学理事・副学長として,産学連携センター長,知的財産本部長,情報統括本部長(CIO),情報政策担当(CIO),財務担当(CFO),産学官連携本部長,キャンパス整備担当などの要職を歴任されました.その他,(財)九州情報システム技術研究所研究室長,知的クラスタ創成事業第I期・第Ⅱ期福岡地域研究統括,(株)産学連携機構九州代表取締役社長,(財)福岡県産業・科学技術財団社会システム実証センターセンター長,(財)福岡アジア都市研究所理事長,一般社団法人大学ICT推進協議会会長,日本学術会議会員,科学技術振興機構さきがけ「社会情報基盤」領域代表,など学外においても幅広い分野で重要な役職に就かれています.本会に関しては,情報・システムソサイエティ会長,副会長などを歴任されています.国外の学会ではIEEE CASソサイエティのVice Chair, Board of Governorなどを務められています.
同君は計算機システムのハードウェアからソフトウェア更には社会システム基盤技術に至る幅広い分野で優れた業績を残しており,特に1990年代に提唱した可変電圧プロセッサを用いたシステムレベルの消費電力最適化手法は今日のプロセッサシステムの低消費電力化手法として広く普及しています.また,教育用マイクロプロセッサKUE-CHIP2の開発や福岡システムLSIカレッジ(現システム開発技術カレッジ)など人材育成にも携わってこられました.国内外の研究者との交流も活発に行われ,特に本会も共同主催していますLSIの設計技術に関するアジア太平洋地区最大の国際会議であるASP-DACの立上げに深く関わり,2003年にGeneral Chairを,その後Steering Committee Chairを務められています.また,九州大学が伊都キャンパスに移転したことを契機に,キャンパス全体を使って教育システム,社会システムとIT,AI技術や5G技術をどのように協調させていくかという遠大なテーマの下で,様々な企業や団体を連携して実証実験を行っています.一例としてキャンパスを対象としてスマートモビリティ推進コンソーシアムを立ち上げ,自動運転やAIによる交通管制,路車間通信,オンデマンド運行などの実験を行っています.
これらの業績は高く評価され,本会学術奨励賞,論文賞,業績賞,情報処理学会論文賞,坂井記念特別賞,Best Author賞,創立40周年記念論文賞,産学官連携功労者表彰文部科学大臣賞など多くの賞を受賞されています.また,本会に加えてIEEEからフェローの称号を授与されています.
以上のように,同君の計算機システムひいては情報通信技術に関する研究業績並びに同分野における社会貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.
オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード