小特集 1. 新型コロナウイルス禍が可視化したオンライン講義の限界と可能性

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.104 No.8 (2021/8) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


総論

小特集 1.

新型コロナウイルス禍が可視化したオンライン講義の限界と可能性

Reflections on Limitations and Future of Online Education at University That COVID-19 Revealed

鈴木栄幸

鈴木栄幸 正員:シニア会員 茨城大学人文社会科学部現代社会学科

Hideyuki SUZUKI, Senior Member (Faculty of Humanities and Social Sciences, Ibaraki University, Mito-shi, 310-8512 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.8 pp.850-854 2021年8月

©電子情報通信学会2021

Abstract

 コロナ禍により否応なくオンライン講義が大学に導入されて約1年が経過した.この特殊な状況により,教員も学生も今まで自明視していた大学教育を失った.それを再編成しようとする努力の中で,これまで意識してこなかった大学教育,そして大学教育におけるICT利用に関わる問題が可視化された.本稿では,この1年の私自身の経験を一人の教育実践者として振り返ることにより,大学におけるオンライン講義の可能性と限界,そこから明らかになった研究課題について述べる.

キーワード:高等教育,ICT利用,オンライン講義(同時双方向型),相互行為,社会的学習観

1.は じ め に

 コロナ禍は,教育界,特に大学に明治維新に匹敵するインパクトを与えた.私が所属する大学でも待ったなしのスケジュールで全ての講義がオンライン実施となり,結果として,全ての教員が,非常勤講師を含めて,自身の講義をオンライン実施した.そして,同じことが全国の大学で一斉に起こったのである.

 否応なしに始まった特殊な状況に教員も学生も戸惑ったが,その特殊な状況が一種の違背実験となり,我々がとりたてて意識してこなかった講義観,講義を成り立たせてきた私たちの方法,職業的満足感の源泉等があぶり出され,そこから今後取り組むべき課題が明らかとなった.本稿では,この1年の私自身の経験を一人の教育実践者として振り返ることにより,大学におけるオンライン講義(同時双方向型)の可能性と限界,そこから明らかになった研究課題について述べる.

2.オンライン講義の効果

 心配していた前期の授業アンケートの集計結果を見ると,満足度,分かりやすさ等の項目において,昨年よりも高い評価が得られていた.なぜこのような結果が出たのだろうか.複数の理由があるのだろうが,ここで思い出したのが,衛星通信を利用した遠隔教育時代の教育工学研究(1)である.

 この研究では,遠隔講義の方が対面講義よりも学習効果が上がる場合があるという驚くべき結果が得られた.著者らは,そうなった理由として以下のように考察していた.すなわち,教員にとって遠隔講義は不慣れな形態であり,その中で教育を成立させるために教員らが講義の準備にいつも以上に熱心に取り組んだため学習効果が高まったのではないか.この報告を初めて読んだ若き日の私は,お恥ずかしながら,この考察の洞察の深さが理解できなかった.しかし時を経て,昨年多くの大学で起こったことはまさにこれだったのではないか.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。