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ICT標準化解説シリーズ
解説
クラウドコンピューティング国際標準規格の経緯と今後の展開
History and Future Directions of International Standards Regarding Cloud Computing
A bstract
クラウドコンピューティングは,仮想化された計算機リソースを,ネットワークを介して遠隔で利用する技術として,2006年頃から注目されてきた.本稿では,クラウドコンピューティングに関わる国際標準規格について,デジュール標準を策定する二つの機関,ISO/IEC JTC 1とITU-T,での規格開発の歴史と,今後の規格策定の方向について概観する.
キーワード:クラウドコンピューティング,クラウドサービス,国際規格,ISO/IEC JTC 1,ITU-T
計算機資源を論理的に分割して遠隔利用するという方法は,1950年代の大形計算機の時分割利用や1970年代のメインフレームの仮想マシン技術の頃から実用化されていた.その後,1990年代にMPU(マイクロプロセッサ)の高速化・高機能化により小形サーバやインターネットが急速に普及し,LAN(Local Area Network)を論理的に分割する仮想ネットワークが一般化すると,計算機やネットワークの物理資源は論理的に分割して「仮想資源」として利用されるようになった.2000年代には高速インターネットが普及し,複数の計算機とデータストレージ装置をデータセンターに集約して効率的に運用管理することで,ネットワーク経由で手軽に計算機を利用できるようになった.更に,仮想計算機や仮想データストレージを組み合わせ,ネットワーク経由で計算機資源を「切り売り」する従量課金が発達し,クラウドコンピューティングの利用が始まった.
クラウドコンピューティングという言葉は,1997年にテキサスで開催されたカンファレンスでのラムナス・チェラッパ氏による「Intermediaries in Cloud-Computing: A New Paradigm」と題する発表(1)で初めて使われた.その後2006年のGoogleのエリック・シュミット氏による発表やアマゾンのウェブサービスにより知名度を上げ,一般的に使われるようになった.
クラウドコンピューティングによるオンデマンドサービス(以下,クラウドサービスと略記)が普及するにつれ,各クラウドサービスプロバイダ(CSP: Cloud Service Provider)が独自規格を策定した.しかし,相互接続や相互運用の要求が高まり,2010年頃からOMG(Object Management Group)やOGF(Open Grid Forum)のようなフォーラム標準化団体(注1)がAPI(Application Program Interface)の標準化の検討を始めた.また,OpenStackなどのソフトウェア実装がオープンソースで公開されるなどオープン化の流れができた.また,IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineer)が技術委員会を設立して学術利用の観点から検討を行った.しかしながら,これらの標準化やオープンソースは実装を重視しており,クラウドコンピューティングの仕組み全体を標準化するものではない.ところがクラウドサービスの調達では,要件としてクラウドコンピューティングを厳密に定義する必要がある.特に政府調達ではWTO/TBT協定(World Trade Organization/Technical Barriers to Trade,貿易の技術的障害に関する協定)に従い,デジュール標準化機関と呼ばれる公的機関が明文化し,各加盟国政府が公式に承認した国際標準規格が必要となる.
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