解説 人工知能(AI)技術と電磁気学を用いた最適設計[Ⅰ]――トポロジー最適化――

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 解説 

人工知能(AI)技術と電磁気学を用いた最適設計[Ⅰ]

――トポロジー最適化――

Design Optimization Based on Electromagnetism and Artificial Intelligence(AI)[Ⅰ]: Topology Optimization

五十嵐 一 伊藤桂一

五十嵐 一 正員 北海道大学大学院情報科学研究院システム情報科学部門

伊藤桂一 正員 秋田工業高等専門学校創造システム工学科電気・電子・情報系

Hajime IGARASHI, Member (Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University, Sapporo-shi, 060-0814 Japan) and Keiichi ITOH, Member (Department of Electrical and Information Engineering, National Institute of Technology, Akita College, Akita-shi, 010-8511 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.1 pp.33-38 2022年1月

©電子情報通信学会2022


目    次

[Ⅰ]トポロジー最適化(1月号)

[Ⅱ・完]深層学習・モンテカルロ木探索の応用(2月号)

A bstract

 トポロジー最適化は,穴の生成・消滅を含めて物体形状を自由に変形し,設計要求を満たす最適形状を見いだす.このアプローチは形状のパラメータ表現が難しい対象の設計に有効である.また設計者の知識では得ることが難しい斬新な形状を生み出すことができるため,特に概念設計に有効である.本稿では,トポロジー最適化の原理と電気電子機器への様々な応用について述べる.

キーワード:トポロジー最適化,確率論的最適化,電磁界解析,スロットアンテナ,モータ

1.は じ め に

 正岡子規は,草花を写生していると「造化の秘密が段々分かって来るような気がする」と書いている.造化の秘密は40億年の進化により生命が得たものである.生命は環境に適応するため,実に精妙な形を獲得してきた.筆者はバクテリオファージの構造を見るたびに,進化原理に畏敬の念を禁じ得ない.さて,このような進化原理を応用し,我々の要望を満たす美しい形を設計することができないだろうか.本稿で述べるトポロジー最適化は,一つの可能性を与える.

 電気電子機器をはじめとする工学システムの最適設計を考える.通常は設計者が寸法や位置,角度などの幾何パラメータを設定し,制約条件を満足しつつコスト関数が最小になるような最適値を求める.この方法(パラメータ最適化)により,設定したパラメータの範囲内で確実に解が求められる.しかしその反面,想定外の解は得られない.また,例えば材料の力学特性を損ねずに軽量化のための穴を空ける問題を考えると,穴の形状や数が未定であるため,パラメータの設定が難しい.トポロジー最適化は,穴の生成・消滅を含めて(種数の変化を許容して),物体を自由に変形して最適解を求める方法である(1),(2).このアプローチにより,幾何パラメータの設定が難しい問題を解くことができる.また設計者の既成概念を超えた新しい構造を生み出すことができる.

 科学は物質の形・構造から,それらの様々な特性を決定する.しかし与えられた特性を実現する形を求めることは科学の範ちゅうではない.これは工学の役割である.更に要求特性を満たす形を求めるだけではなく,設計者が機械からアイデアを獲得し,知見を学習データとして機械に与える.このような相互の協調により,所望の特性を発揮する「よい」形を創造できないだろうか.このためには形の生成のみならず,形の理解も必要だろう.次回の解説ではトポロジー最適化結果と深層学習による形の理解の試みを紹介する.ヒトと機械の協調による新しい「知」の創造―これを実現するのが,筆者らが目指す人工知能(AI)である.


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