解説 マテリアルズインフォマティクスを支えるアナリティクスとITプラットホーム

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Vol.105 No.1 (2022/1) 目次へ

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DX とそれを支える技術シリーズ

 解説 

マテリアルズインフォマティクスを支えるアナリティクスとITプラットホーム

Analytics and IT Platform to Support Materials Informatics

淺原彰規

淺原彰規 正員 (株)日立製作所研究開発グループ

Akinori ASAHARA, Member (Research & Development group, Hitachi Ltd., Kokubunji-shi, 185-8601 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.1 pp.52-57 2022年1月

©電子情報通信学会2022

A bstract

 材料科学分野では,環境負荷の少ないプラスチック素材などの材料需要の多様化に応えるため,AIやシミュレーションなどの技術を用いて新材料の研究開発効率を向上するMI(マテリアルズインフォマティクス)の活用が進められている.本稿ではMIで求められるアナリティクスと,それを支えるITプラットホームに求められる技術について紹介し,今後の展望を述べる.

キーワード:マテリアルズインフォマティクス,人工知能,データサイエンス,深層学習

1.は じ め に

 近年,素材産業の技術競争は国際的に激化し,短時間・低コストでの材料開発が必須となってきた.従来の材料開発では,様々な条件で試料を作成・評価し,より良い性質を持つ材料を試行錯誤的に探索してきた.しかし,それでは費用や時間がかかってしまう.

 そこでIT(Information Technology)を活用し材料開発を加速するMI(Matrerials Informatics)と呼ばれる技術が脚光を浴びている(1),(2).中でもAI(Artificial Intelligence)の技術を用いたデータ駆動形MIは,素材産業を革新する技術として,有望視されている.そこで本稿ではその動向を紹介し,ITの観点からMIに求められる技術について解説する.

1.1 マテリアルズインフォマティクス(MI)

 従来,新材料の開発においては,様々な条件で試料を作成して評価することを繰り返し,試行錯誤の中で法則性を見つけながら,より良い性質を持つ材料を探索するということが行われてきた.この過程では,試料の作成と,その性質の評価に費用と時間がかかるため,ITを活用した効率化のニーズは大きい.

 旧来から取り組まれてきたMIは,第一原理計算などの数値シミュレーションによるものが中心である.数値シミュレーションは,物理や化学の自然法則がある場合に,それが導く結果を算定するための方法であり,特に基本的な自然法則に対するものが第一原理計算と呼ばれている.一般的には,自然法則を示す偏微分方程式の解を求めることで,所定の条件下で発生する現象の予測ができる.これにより,実験を経ずに材料の性質が得られ,コストや時間の効率化につながる.ところが,現実には,起きる現象が複雑過ぎて法則を記述しきれないことが多い.

1.2 近年の動向:データ駆動形MI

 そこで近年になって期待されているのが,データサイエンスの活用である.複雑な現象の結果を表すデータを起点とし,帰納法的に扱うことで,現象の複雑さの問題を避けられることが期待される.つまり,法則から結果を求めるのではなく,過去データから今後の結果を推測するのである.しばしば「データ駆動形」という呼称が用いられ,深層学習をはじめとするAI関連技術の隆盛に伴い,データ駆動形のMIが材料開発を革新するのではないか,と言われている.


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