回想 ディジタル映像伝送の開拓と国際標準化の始まり

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回想

ディジタル映像伝送の開拓と国際標準化の始まり

To Explore Possibilities of Digital Video Transmission and International Standards

山本英雄

山本英雄 正員:フェロー

Hideo YAMAMOTO, Fellow.

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.1 pp.58-62 2022年1月

©電子情報通信学会2022

 1970年代半ばから1990年代初めにかけて筆者が関わったディジタル映像伝送の研究開発と国際標準化活動を回想する.

1.ディジタル映像通信研究との出会い

 筆者は1965年4月KDD(現在のKDDI)に入社,研究所情報処理課に配属された.最初の仕事は,座席予約などに実用が進み始めた電子計算機によって,当時国際通信の基幹業務であった国際電報の中継業務を自動化することであった.この仕事は2年余りで完成,その結果に基づき1971年に国際電報中継自動化システム(TAS)が商用化された.

 このプロジェクトの責任者であった情報処理課長が,その後東工大に迎えられた(故)榎本肇教授であった.榎本教授はプロジェクトの一つとして変換符号化によるテレビ画像のデータ圧縮の研究を指導されていた.これは変換符号化の世界最初の試みである.私がディジタル映像通信研究の一端に触れたのはこれが最初であった.

2.画像処理シミュレータ(1)と方式変換装置(2)

 変換符号化の研究で研究所幹部は実験装置に多額の研究費が費やされることに頭を悩まし,その研究を電子計算機によるシミュレーションによって行うことを考え,そのための装置の開発を私に命じた.電報中継自動化開発の実績が評価されたらしい.

 要点は,テレビ映像をディジタル化し,それに符号化処理を施し,結果をテレビ映像として再現表示することであった.今ならPCで何でもない機能だが,当時は簡単ではなかった.その頃,磁気メモリに代わり,比較的に安価な半導体メモリ(RAM)が利用可能になり,これを画像メモリとし,スポーツ放送のスローモーション再生に利用されていたビデオディスクを組み合わせて30秒間のカラーの動画像の処理ができる画像処理シミュレータを開発した.当時としてはディジタル画像処理の最高の機能を実現できた.これはその後の画像符号化の研究に大いに寄与し,また東大生産研の(故)高木幹雄氏の医用画像処理の研究など社外のディジタル画像処理の研究にも利用された.

 次いで取り組んだのはテレビの方式変換装置のディジタル化であった.

 テレビ放送は当時アナログ方式で,世界的に二つの走査方式:日本,米国などの525(走査線数)/60(毎秒の画面数)と欧州諸国の625/50,また三つの複合カラーテレビ方式:日本や米国などのNTSC,英国やドイツなどのPAL,フランスや東欧諸国のSECAM,が並存した.複合カラーテレビ方式というのは,輝度信号のスペクトルの隙間に二つの色度信号を挿入するもので一種のデータ圧縮方式である.

 このためテレビ番組の国際中継ではこの変換が必須であり,水晶遅延線を画像メモリとするアナログ技術による方式変換装置が使用されていたが,装置が巨大で,また変換画質にも不満があった.


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