特集 11. 小形・高速シリコンフォトニック結晶スローライトマッハツェンダ変調器

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Vol.105 No.11 (2022/11) 目次へ

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シリコンフォトニクスを用いた光通信素子の研究開発最新動向

特集

     11.

小形・高速シリコンフォトニック結晶スローライトマッハツェンダ変調器

Compact, High-speed Silicon Photonic Crystal Slow-light Mach-Zehnder Modulators

馬場俊彦

区切り

馬場俊彦 正員 横浜国立大学工学研究院知的構造の創生部門

Toshihiko BABA, Member (Faculty of Engineering, Yokohama National University, Yokohama-shi, 240-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.11 pp.1356-1360 2022年11月

©電子情報通信学会2022

abstract

 フォトニック結晶光導波路は広い波長帯域でスローライトを発生させ,光と媒質の相互作用を増強する.高速なデータ通信に用いられる光トランシーバ用マッハツェンダ光変調器にこれを適用すると,そのサイズを通常の10分の1に縮小することができ,プラガブルモジュールの小形化や並列・多重伝送の大規模化に有効となる.フォトニック結晶はシリコンフォトニクスの標準プロセスで製作できる.pn接合や電極を最適化することにより,遮断周波数38GHz,強度変調64Gbit/s,波長多重やPAM4信号と併用することで,100Gbit/sを超える高速変調が可能になった.

キーワード:シリコンフォトニクス,フォトニック結晶,スローライト,光変調器

1.は じ め に

 一般に,光パルスは広いスペクトル成分を持ち,全てのスペクトルの位相がそろった場所で強度のピークを取る.全てのスペクトルが同じ速度で進めば,当然,光パルスも同じ速度になる.しかし各スペクトルが異なる速度で進むような分散があると,光パルスが極端に遅くなることがある.このような状態をスローライトと呼ぶ.光パルスの群速度は群屈折率mathを用いてmathと表され,スローライトの状態にある光パルスは,mathが小さく,mathが大きくなる.光学の教科書に見られるように,光の波数mathと周波数mathに対してmathmathはそれぞれmathmathと与えられる.つまり一次分散mathの増大によりスローライトが起こる.

 このような光は,1999年にハーバード大学のL. Hauらによって最初に報告された(1).ここでは,極低温下で安定化された準位にある電子と光子の量子干渉現象(電磁誘導透過)により,math~107という超低群速度が生み出された.しかし電磁誘導透過に限らず,一般にスローライトは一種の共鳴現象に基づくため,mathと動作周波数帯域math(または波長帯域math)の間には常にトレードオフの関係がある.実際,上記の極端なスローライトのmathはkHzオーダと狭く,極低温が必要ということもあって,工学応用は難しいと考えられた.その後,2001年にNTTの納富らはフォトニック結晶導波路を用い,周期構造に由来するブラッグ条件付近の波長で,math~102のスローライトを観測した.これは常温の微小な素子においてもスローライトが発生し得ることを示し,同じフォトニック結晶を研究する我々にインパクトを与えた(2).ただし,ブラッグ条件付近はやはり帯域が狭く,また一次分散だけでなく高次の分散も大きくなり,光パルスが著しく乱れるという問題があった.


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