小特集 3. 強磁性トンネル接合素子の強磁性電極材料

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電子スピンの回路とシステムへの応用

小特集 3.

強磁性トンネル接合素子の強磁性電極材料

Ferromagnetic Electrode Materials of Ferromagnetic Tunnel Junctions

永沼 博

永沼 博 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター

Hiroshi NAGANUMA, Nonmember (Center for Innovative Integrated Electronics Systems, Tohoku University, Sendai-shi, 980-8572 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.12 pp.1414-1420 2022年12月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 電子の電荷だけでなくスピンの自由度を利用した強磁性トンネル接合素子は,基礎物性の理解が深まり,回路システムと統合させたデバイスを目指す段階となっている.強磁性トンネル接合素子は極薄の絶縁層を2枚の強磁性電極層で挟んだ3層が基本構造となる.強磁性電極の磁気特性により,超高感度磁気センサ,不揮発性磁気メモリ素子,及びスピン発振・検波素子,等になり得る.本稿では,強磁性トンネル接合の強磁性電極材料に応じたデバイス例を幾つか紹介しながら概説する.

キーワード:強磁性トンネル接合素子,不揮発性磁気メモリ,超高感度磁気センサ,スピン発振・検波素子

1.背     景

1.1 強磁性トンネル接合素子の原理

 電子の電荷だけでなく,スピンの自由度を積極的に利用したスピントロニクス分野では,多くの基礎研究による知見が蓄積されてきた.基礎研究を経て,デバイスまで発展したスピントロニクス研究として強磁性トンネル接合素子がある.強磁性トンネル接合は,極薄の絶縁層を2枚の強磁性電極層(FM1,FM2)で挟んだ3層を基本構造としている.現在,強磁性トンネル接合素子を用いて,ハードディスクドライブ(HDD)の読取りヘッド用の磁気センサが実用化され,更に不揮発性磁気メモリのリスク生産が行われている.図1に示す円形ドットの形状は,リソグラフィー技術を用いて加工され,続いて,その円形ドットの上下に電極に配線し,垂直方向に電流を流すことにより,強磁性トンネル接合素子は動作する.ドットの接合直径は不揮発性磁気メモリなどでは数nmから数十nm(1),磁気センサなどでは数百µmとなり,デバイス用途によりスケーリングが異なる.

図1 強磁性トンネル接合素子の基本構造

 強磁性トンネル接合素子の固定層(FM1)と自由層(FM2)の厚さはFM1に比べてFM2が薄く,数nmから数十nm厚のスケーリングとなる.また,FM1は電流若しくは磁界に対して鈍感で,FM2は外場に応答する性質をもつ.外部磁界に対して敏感(高感度)にFM2が応答するとき,強磁性トンネル接合素子をHDDの読取りヘッドの磁気センサとして利用することができる.HDDの読取りヘッドに比べて更に高感度化させることで,微弱な生体磁界を強磁性トンネル接合素子により検出できるようになる.また,FM2の磁化方向は,磁界だけでなく,電流を流すことにより磁化方向を制御することもできる.


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