小特集 4. 電子顕微鏡のスピントロニクス応用――磁界計測――

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Vol.105 No.12 (2022/12) 目次へ

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電子スピンの回路とシステムへの応用

小特集 4.

電子顕微鏡のスピントロニクス応用

――磁界計測――

Applications of Electron Microscopes for Spintronics: Magnetic Field Measurements

谷垣俊明

谷垣俊明 (株)日立製作所研究開発グループ

Toshiaki TANIGAKI, Nonmember (Research & Development Group, Hitachi, Ltd., Saitama-ken, 350-0395 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.12 pp.1421-1426 2022年12月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 電子顕微鏡によるナノスケール観察はデバイス開発及び製造管理において有用な解析手法の一つである.環境負荷軽減への貢献が期待されるスピントロニクスデバイスの開発においては,電子顕微鏡による電磁界計測技術が有用な解析手法となると期待される.本稿では,低消費電力デバイスへの応用が期待されるスキルミオンの磁界観察,三次元磁界観察,及びサブナノスケール磁界観察への電子線ホログラフィーの応用事例を紹介する.

キーワード:磁界計測,電子顕微鏡,三次元観察,高分解能観察

1.ま え が き

 省エネデバイスとして期待されるスピントロニクスデバイスの研究と安定した量産技術の確立には,既存のSi半導体デバイスの開発史がそうであったように,デバイスの動作原理解明と不良を解析する技術が求められる.実用化に近いデバイス解析では特定箇所の解析が求められ,電子顕微鏡は構造だけでなく電磁界も含め高分解能で観察できる点で有用な手法である.電子顕微鏡による電磁界観察方法は大きく分けて走査電子顕微鏡を用いる手法と透過電子顕微鏡を用いる手法に分けられる.ここでは透過電子顕微鏡を用いる手法の中でも電子線ホログラフィーによる磁界計測を中心に紹介する.

 電子線ホログラフィーは電子顕微鏡レンズの収差を補正し分解能を向上させることを目的とし,Gaborにより1948年に発明された(1).ただし当時の電子顕微鏡は電子線ホログラフィーを実現するために必要な電子源の輝度が十分ではなかったため,Gaborはホログラフィーを電子顕微鏡ではなく光学顕微鏡で実証した.電子顕微鏡で電子線ホログラフィーが実現したのは,とがった針先から電子を電界放出する輝度の高い冷陰極電界放出形電子銃が開発されて以降の1970年代後半になってからである(2).その後,電子線ホログラフィーは電子波の位相観察による電界観察や磁界観察の手法としての応用が広がった.

 電子線ホログラフィーの計測は試料情報を含む電子波の干渉像であるホログラムの記録と,記録したホログラムから試料を透過した電子波の振幅と位相を再生する二段階の手順で行われる.ホログラムは,試料を透過した電子波である物体波と真空などの参照領域を通過した参照波を,バイプリズム(用語)の作用で重畳させ干渉させることで得られる(図1).

図1 電子線ホログラフィーの原理  試料を透過した電子波と試料のない参照領域を通過した電子波を,バイプリズムにより検出器上で重畳させてホログラムと呼ばれる干渉じまを得る.


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