解説 バイオロギングによって実現する海洋生物と人の持続可能な共生社会

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Vol.105 No.12 (2022/12) 目次へ

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 解説 

バイオロギングによって実現する海洋生物と人の持続可能な共生社会

Sustainable Symbiotic Society of Marine Life and Human Beings Realized by Biologging

佐藤克文 渡辺伸一

佐藤克文 東京大学大気海洋研究所海洋生命科学部門

渡辺伸一 リトルレオナルド社

Katsufumi SATO, Nonmember (Atmosphere and Ocean Research Institute, University of Tokyo, Kashiwa-shi, 277-8564 Japan) and Shinichi WATANABE, Nonmember (Little Leonardo Co., Tokyo, 113-0021 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.12 pp.1445-1453 2022年12月

©電子情報通信学会2022

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 バイオロギングというのは動物に小形の記録計を取り付けて,直接観察するのが難しい海洋大型動物の行動・生理・生態を調べる手法である.本稿ではその始まりから発展,更に予想外の展開として海洋物理環境測定にも応用されるようになった経緯を紹介する.近い将来,気象予報の精度向上や海洋資源管理,希少動物の保全,あるいは学童や一般市民の海洋リテラシー向上など,様々な社会課題解決にバイオロギングデータが利用される可能性がある.そのためのデータベースBiologging intelligent Platformを構築し,海洋生物と人の持続可能な共生社会の実現を目指す.

キーワード:南極,データロガー,加速度,データ同化,Biologging intelligent Platform

1.バイオロギングのはじまり

 アフリカのナミビアに行ったことがある.ブッシュの間を車で移動していたら,木々の上からキリンがニュッと顔を出した(図1).車を止めてしばらくにらめっこしていたら,何を思ったかキリンは逃げ出した.長い足の動きはスローモーションのようであったが,結構な速さで走り去っていった.次の機会があったら,こちらの姿が見えないよう身を隠せばもう少し長時間観察できるのではないかと思ったりした.その後もチーター,ダチョウ,イボイノシシ等々,テレビ番組で目にしたことがあるおなじみの動物を車窓から眺めることができた.いずれの動物も,研究者が工夫を凝らせば結構長時間観察できるように思え,そんなことを思う自分に違和感を覚えた.なぜなら,筆者らが普段相手にしている海洋動物は,こんなにしげしげと観察するチャンスを与えてくれないからだ.

図1 木々の上から顔を出すキリン

 クジラ,アザラシ,ペンギン,ウミガメなど,子供でも姿形を思い浮かべることができるほどなじみが深い,と私たちが勝手に思っている動物を,海で眺め続けることはほぼ不可能だ.これらの肺呼吸動物が海面で呼吸する瞬間を船上から目撃することはある.しかし,海中に入ってしまうともはや何も分からない.さっき見たのとは別の個体でもよいからまた姿を拝めないものかと願いつつ,ひたすら待つしかない.そして,その願いがかなえられることはまずない.そんな違いがもたらした結果だろうか,陸上動物に比べて海洋動物の生活は世間の人が思っているほどには明らかになっていない.ところが,そのジレンマを部分的に解消する手法が近年考案され,潜る・泳ぐ・食べるといった幾つかの行動に限っていえば,陸上動物よりも詳しく,場合によっては秒単位で調べられるようになりつつある.


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