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システム数理の現状と展望
小特集 2.
ハイブリッドシステム
――連続と離散をつなぐシステム科学――
Hybrid Systems: Systems Science for Connecting Continuous and Discrete Spaces
Abstract
ハイブリッドシステムとは,連続値信号と離散値信号が混在した動的システムのことである.今日の人工的なシステムの多くが物理系と情報系が結合されてできており,また,生物や生体など自然界にも同様の仕組みが元来備わっていることが知られている.このような背景の下,1990年代に計算機科学とシステム制御の分野でハイブリッドシステムに大きな注目が集められ,ここ20年間で精力的に研究がなされてきた.本稿では,ハイブリッドシステムの数理モデルと制御について紹介する.最後に,近い将来に応用が期待される分野について述べる.
キーワード:ハイブリッドシステム,混合論理動的システム,イベント駆動制御
ハイブリッドシステムとは,連続値信号と離散値信号が混在した動的システムのことである.例えば,自動車の運動を思い浮かべてみよう.車体の運動に関わる物理量は,位置,速度,加速度などであるが,これらはいずれも連続値の量である.一方,自動車には,エンジンからの動力を地面に適切に伝えるために変速機が備わっているが,その変速比は1速,2速,…と離散値の量となる.つまり,自動車の運動は,連続値信号と離散値信号の両方で定まる.この点に着目すると,自動車はハイブリッドシステムの一つだと分かる(注1).
表1にハイブリッドシステムの例を示したが,航空機,ロボットなどの機械系,電力変換器などの電気系,化学プラントなどのプロセス系が代表的である.また,スイッチ作用が重要な役割を演じている生体系や,認知と判断が行動の基本となる人間や動物もその例である.更には,近年,実空間とサイバー空間にまたがったサイバーフィジカルシステムが注目を集めているが,それもハイブリッドシステムの一種といえよう.
ハイブリッドシステムの研究は,古くは1960年頃(1)まで遡ることができる.しかし,当時は,単発的な研究が散見される程度で,研究領域と呼べるようなまとまった動きはなかった.それゆえ,現実には,システムを局所的に捉え,経験と勘に基づく方法でシステムの解析や設計が行われていたようである.1990年代後半に入ると変化が訪れる.計算機科学の分野において,計算機と実世界の相互作用が注目され始めた.時期を同じくして,システム制御の分野でも,if-thenの形式で記述されるルール型の制御や,不連続な物理現象を含む場合の制御に関心が集まり始めた.これらがきっかけとなり二つの分野でハイブリッドシステムの重要性が認識され,新しい学術分野が誕生するに至った.この20年で,その数理がおおよそ整備され,書籍(例えば文献(2),(3))やハンドブック(4)が出版されている.我が国でも書籍(5)が出版されている.
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