小特集 5. 過酷事故対応可能なダイヤモンド半導体及び検出器システム

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極限環境の計測を支える回路とシステム技術

小特集 5.

過酷事故対応可能なダイヤモンド半導体
及び検出器システム

Diamond Semiconductor Electronics for Post-accident Monitors

梅沢 仁 川島宏幸 金子純一 星川尚久 乗松崇泰

梅沢 仁 国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター

川島宏幸 国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター

金子純一 星川尚久 北海道大学大学院工学研究院応用量子科学部門

乗松崇泰 (株)日立製作所研究開発グループ

Hitoshi UMEZAWA, Hiroyuki KAWASHIMA, Nonmembers (Advanced Power Electronics Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Ikeda-shi, 563-8577 Japan), Junichi H. KANEKO, Naohisa HOSHIKAWA, Nonmembers (Graduate School of Engineering, Hokkaido University, Sapporo-shi, 060-8628 Japan), and Takayasu NORIMATSU, Nonmember (Research and Development Group, Hitachi Ltd., Kokubunji-shi, 185-8601 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.4 pp.299-305 2022年4月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 ダイヤモンドは半導体材料の中でもバンドギャップが大きく軽元素結晶であるため高温や放射線環境下でも長期安定な結晶体かつ電気的な誤動作も少ない材料である.これまで,ダイヤモンド半導体製造プロセスの特殊性やウェーハが高価であることから,半導体素子の開発が遅れていたが,近年プロセスが成熟し高性能素子が報告されている.本稿では過酷事故環境でも生存が可能なエレクトロニクスの実現に向けたダイヤモンド半導体とダイヤモンド半導体を用いた回路について開発の現状を述べる.

キーワード:ダイヤモンド ,過酷事故対応 ,CAMS ,MESFET ,RADDFET

1.概     要

 2011年の東日本大震災により引き起こされた福島第一原子力発電所における過酷事故では,原子炉格納容器内が高温,高放射線,高湿度,など極めて厳しい環境に置かれ,使用されるエレクトロニクス機器は大きなダメージを受けた.原子炉格納容器内や建屋内で使用される機器に対する要求性能,特に動作温度要求はこれまでより厳しい性能が検討されたが,現実的に対応可能な電子デバイス製造技術や回路技術がなく,典型的なボトルネック課題となっている.現状の軽水炉では積算線量5MGy,動作温度230℃が原子炉格納容器内使用機器への要求性能として考えられている.しかし,福島第一原子力発電所事故においては,これ以上の環境温度にさらされた領域もあること,圧力容器直下では火災事故にも対応可能な核計装が望まれていることや,ナトリウム冷却高速炉などではより高温動作が望まれるため,動作温度500℃,耐熱温度650℃を半導体素子や回路の耐環境目標とすべきであると考えている.

 ダイヤモンドは軽元素な単元素半導体材料であり,高い共有結合エネルギーを有する結晶であること,更にバンドギャップが5.5eVと大きいことから高エネルギー粒子の入射において生成電荷が少なく点欠陥の形成も少ない.また800℃を超える高温でも真性キャリヤ密度が極めて少ないため,放射線検出素子や耐過酷環境半導体として最適である(1).図1に耐環境型放射線計測システム(CAMS)の概要を示す.これまでに,超高純度ダイヤモンドを用いた検出器で高温環境でも高い感度で放射線損傷やチャージングなどの信号劣化なく放射線検出可能であることが確認されており,更にダイヤモンドトランジスタが高温・高放射線環境でも劣化がないことを確認しているため,ダイヤモンド検出器とダイヤモンド半導体素子を用いた前置増幅器を組み合わせた放射線計測システムは原子炉の近くに配置することができ,低雑音で過酷事故環境を耐える計測システムが実現可能であると考えている.


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