小特集 3. 擬似逆正接復調によるマイクロ波心拍検出法

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マイクロ波・ミリ波を用いた生体計測の最新動向

小特集 3.

擬似逆正接復調によるマイクロ波心拍検出法

Microwave Heartbeat Detection Using Quasi Arctangent Demodulation

本間尚樹 村田健太郎 小林宏一郎 岩井守生 佐藤 敦

本間尚樹 正員 岩手大学理工学部システム創成工学科

村田健太郎 正員 岩手大学理工学部システム創成工学科

小林宏一郎 岩手大学理工学部システム創成工学科

岩井守生 岩手大学理工学部システム創成工学科

佐藤 敦 (株)アイシン

Naoki HONMA, Kentaro MURATA, Members, Koichiro KOBAYASHI, Morio IWAI, Nonmembers (Faculty of Science and Engineering, Iwate University, Morioka-shi, 020-8551 Japan), and Atsushi SATO, Nonmember (Aisin Co., Ltd., Tokyo, 101-0021 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.6 pp.489-496 2022年6月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 本稿では,低マイクロ波帯におけるバイタルサイン計測に適した擬似逆正接復調法について解説する.擬似逆正接復調法は,体表面変位幅が波長に比べて微小であっても,高精度なバイタルサインの検出を可能とする.特に,呼吸高調波を抑圧することで心拍成分への干渉を回避できるため,心拍数の検出精度を高められる.屋内環境におけるMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)レーダを用いた実験結果から,複数人心拍数を同時に検出できることを明らかにする.

キーワード:マイクロ波,バイタルサイン計測,心拍

1.ま え が き

 電波によるヒトのバイタルサインの計測は,非接触・非拘束であるという点と,プライバシー的にも問題が生じにくいという点で盛んに検討されている.文献(1)では,10GHzにおいて動物の呼吸を観測しており,その後同著者によりヒト心拍の検出の実験結果について報告されている(2).その後多くの機関によりヒトのバイタルサイン計測に関する研究が発表され(3)(9),今日に至っている.当初は受信された信号に対して単にフィルタをかけるといった処理が主流であったが(3)(5),心拍の計測は呼吸の高調波成分に妨害されるため難しく,心拍数検出精度を上げるためには,呼吸を止めて測定するといった方法がとられていた(5).しかし,長時間のモニタリングのためには,自然な状態で測定可能なことが重要である.

 超広帯域信号を用いることで体表面変位を正確に測定することができるため,バイタルサイン検出への応用が検討されている(6)(8).体表面変位情報が分かれば原理的には容易に心拍を分離することが可能である.このように,ミリ波は比較的容易に帯域を確保可能であるため近年多くの検討がなされているが,より高い精度を得るためには更に多くの周波数帯域が必要になるという課題もある.

 C. Liらは,狭帯域なCW(Continuous Wave)レーダを用い,呼吸の主要な高調波を減算することで信号を分離する方法を提案している(9).しかしながら,最終的には高調波は残存する上,アンテナと被験者の距離や体表面変位幅の個人差や日内変動によって高調波のパラメータも変動するため,万能とは言い難い.

 一方,逆正接復調(ATD: Arctangent Demodulation)と呼ばれるバイタルサイン検出法が提案されている(10).これは,周期的に変動する体表面からの反射波の複素信号が,複素平面上で円弧を描くことを利用し,円中心を基準とした位相成分だけを取り出すことによって高調波の発生を抑制する手法である.この手法では円中心を正確に推定することが重要であり,中心位置に誤差があると高調波を抑圧できない.そのため,様々な推定法が検討されている(11)(13).しかしながら,X. Gaoらの検討(11)によれば中心点の推定精度は円弧の長さで決まるため,円弧が短くなる低マイクロ波帯ではATD法の精度が低下する.


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