小特集 5. マイクロ波簡易乳がんスクリーニングのための深層学習と逆散乱解析法の統合

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マイクロ波・ミリ波を用いた生体計測の最新動向

小特集 5.

マイクロ波簡易乳がんスクリーニングのための深層学習と逆散乱解析法の統合

Incorporation of Inverse Scattering Analysis and Deep Learning for Microwave Breast Cancer Screening Technique

木寺正平

木寺正平 正員:シニア会員 電気通信大学情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻

Shouhei KIDERA, Senior Member (Graduate School of Informatics and Engineering, The University of Elecro-Communications, Chofu-shi, 182-8585 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.6 pp.502-508 2022年6月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 マイクロ波乳がん診断は,安全,簡便かつ高精度ながん診断技術として注目されている.本稿では,マイクロ波によるがん診断において逆散乱解析と深層学習による誘電率再構成法について紹介する.逆散乱解析法は領域積分方程式を解くことで対象の複素誘電率を再構成する方法であるが,組織内部での散乱・回折・多重反射等の非線形性を考慮する必要があり,また一般にデータ数が未知数よりも少ない不良設定問題を解く必要がある.これに対して,散乱データから直接的に複素誘電率分布を再構成する深層学習を導入し,上記問題の初期値依存性を回避する.精緻な乳房ファントムを用いた数値計算例により,本手法の有効性を示す.

キーワード:マイクロ波乳がん診断,逆散乱解析,深層学習,複素誘電率分布再構成

1.は じ め に

 乳がんは罹患率が最も高いがんとして国内外で認識されている(1),(2).特に初期段階で治療開始する場合においては5年生存率は100%であるのに対して,末期での治療開始では上記生存率が37.1%と低くなる(3).このため,より高頻度な乳がん検診が極めて重要である.一方,既存の乳がん検診技術であるX線マンモグラフィーは,高エネルギーX線による細胞・DNAの損傷があるため,検診頻度は年に一度程度である.また検診において,乳房を強く圧迫するため,被験者への痛みが無視できない.このため,より安全かつ高頻度なスクリーニング技術の需要が高まっている.また,上記技術では乳腺が発達した高濃度乳房において,乳腺とがん組織の識別が難しく高い偽陽性率も問題となっている.特に50歳以下の日本人女性の8割程度が高濃度乳房であるため,その診断精度が問題となっている.

 他のモダリティにおいても,超音波検査においては,がんの識別精度が検査技師の技量に依存すること,MRI(Magnetic Resonance Imaging)検査では造影剤使用と検査時間の問題がある.現在,50から69歳の日本人女性における乳がん検診の受診率は41.0%程度であり,アメリカやイギリスの75%と比較して極めて低い水準となっている(4)

 上記の背景においては,マイクロ波による乳がん診断技術は,生体への安全性,非接触計測,低コストかつコンパクトな装置などの多数の利点があるため,特に数か月に一度程度の高頻度なスクリーニング技術として注目されている.多数の標本調査において,がん組織の複素誘電率は,正常組織である脂肪組織に比べて約10倍程度,乳腺組織に対して約1.2倍のコントラストを有していることが実証されている(5).上記コントラストにより,がん組織から卓越した散乱信号を得ることが可能であり,その散乱信号から画像化により,乳がんの有無を識別することができる.上記の画像化手法においては,主にレーダ方式とトモグラフィー方式が採用されている.


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