別冊特集 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のテクノロジーとイノベーション発刊に寄せて

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Vol.105 No.8 (2022/8) 目次へ

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発刊に寄せて

写真:川添雄彦一般社団法人
電子情報通信学会
会長  川添 雄彦

 “東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のテクノロジーとイノベーション”を発刊できますことを心からうれしく思います.

 誰も予想できなかったであろう“コロナ禍”という,オリンピック史上類を見ない,開催すらも危ぶまれる困難な逆風にあって,本大会が当初掲げた「史上最もイノベーティブで,世界にポジティブな改革をもたらす大会」というビジョンは,叶えたい目標から達成すべき課題へと変化し,本ビジョンの実現なくして大会の成功はなし,という位置付けになったのではないでしょうか.

 そのような中,特異な環境下,想定外の条件下でも高度なプロジェクトマネジメント力と対応力で技術者全員が自己ベストを発揮した軌跡.更に,産官学の壁を取り払い,多様な分野の研究者が自己の最高の技術力を一つのゴールへ向け調和させた軌跡.そして,何十年後にまた次の東京オリンピックを作り上げる中心的存在となる現在の子供たち,彼らにとってレガシーとなる体験を創出し伝承していく軌跡.これら,三つの大会基本コンセプトを踏襲しながら,未来へのイノベーションを起こし世界を驚かせたトップクラスの研究者・技術者たちの軌跡が,本誌に詰め込まれています.

 私たちはこの大きな成功体験を財産として物語に記し,グローバルに発信するとともに,後進に残すことで,今後ますますのICTテクノロジーの発展に貢献していきたいと考えています.

 なお末筆ながら,本誌では伝え切れない医療関係者の皆様の努力と,それをICTテクノロジーで支えた(今も支え続けている)研究者・技術者が多くいることにも感謝と敬意を表します.

写真:古宮正章公益財団法人
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
副事務総長  古宮 正章

 コロナ禍で,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は1年延期という異例の事態となり,少なくとも競技自体は安全裏に実施できるよう,集中することとなりました.ほぼ無観客での開催を余儀なくされ,当初描いていたように,ディジタルテクノロジーを活用したイノベーションの試みが完結したかといえば心残りはあるものの,困難な状況であったがゆえに,これまでにない仕組みを考案し,かつ実際に大会の遂行に少なからず貢献できたものと自負しています.

 選手をはじめ,大会そのものを感染から守るためのルールブックが策定されましたが,それを実行するために必須となる情報共有をベースとした管理システム.またオンライン上で大会を楽しみ,あるいはバーチャルに参加できる環境を提案するなど,コロナ禍の大会をきっかけとして,今後に生かせるアイテムを展開してきたと考えております.

 一方で,サイバーセキュリティの確保は,これまで以上にハイレベルのミッションであったことは間違いなく,正に複雑化した大会オペレーションに沿って,その実現も困難を極めました.振り返れば,あり得る攻撃をどれだけ合理的に想定し,見積もるか,仮に“発症”した場合のリスクコントロール策を,柔軟に準備できるかが肝だったと思われます.更には準備した機能を使いこなすための,事前の実地訓練の繰り返しが奏功したこと,むしろこれが成否の大きな鍵を握ることもお伝えしておきたい.

 この記録が,大会をやり切った一つの成果として,今後の社会活動において,多少なりともお役に立てられれば本望です.

写真:田原康生総務省 国際戦略局
局長  田原 康生

 2021年8月,新型コロナウイルス感染症の蔓延により1年遅れでの開催となった東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が成功裏に終了しました.大きなトラブルなく無事終了できたのは,大会組織委員会をはじめとする関係の皆様の御尽力の賜物であり,深く敬意を表します.

 今日,大規模なスポーツ競技大会の運営や全世界に向けた映像配信等には様々な無線システムが活用されており,そうした無線システムが適切に利用できなければ,こうした大会は実現できないといっても過言ではありません.特に今回の東京2020大会は,電波利用の過密都市東京での開催ということもあり,必要な周波数を本当に確保できるのかといった心配も当初ありました.

 総務省では,大会で利用される様々な無線システムが混信妨害なく適切に利用できるよう,大会組織委員会や無線局免許人の皆様の協力も得ながら,必要な周波数の確保に取り組んできたほか,周波数管理,検査,電波監視といった業務を通じて,大会の成功に寄与しました.

 また今回は,残念ながら,海外から多数のお客様を日本にお迎えして,各競技会場で直接競技を観戦頂くことはかないませんでしたが,(国研)情報通信研究機構(NICT)を中心に開発を進めてきた多言語音声翻訳技術(VoiceTra)も競技会場等における円滑な情報伝達に活用頂きました.

 今大会で得られたこうした電波監理に関する様々な経験や技術開発の成果は,将来に向けた貴重な財産となるものであり,しっかりと総括を行い,次の世代につなげていくことが重要となります.

 今回の特集が,そうした未来への架け橋の一助となることを期待しております.

写真:𠮷川徹志内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)
副センター長 内閣審議官  𠮷川 徹志

 今回の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)は,無観客での開催となる一方,全世界では30億を超える方々がテレビやオンラインで大会を視聴しました.それに伴ってサイバーセキュリティの確保は大きな課題となっていましたが,大会組織委員会,民間事業者,政府等が一丸となって準備・対応し,安全で安心な,世界に誇れる大会を実現することができました.

 政府による代表的な取組みとして,約350の関係組織間で脅威情報の共有等を迅速かつ効率的に行うための情報共有プラットホーム(JISP)を整備・運用したことが挙げられます.大会期間中には,不正サイト等に関する情報を迅速に共有し,警戒を呼びかけました.こうした取組みの結果,大会の運営に影響を与えるようなサイバー攻撃は確認されませんでした.

 こうした取組みを未来につなげて活用していくことが重要です.東京2020大会を通じて得られたノウハウを,オリンピック等の開催を控える他国と共有するとともに,東京2020大会に向けた取組みを我が国のサイバーセキュリティ全体の底上げに役立てていく必要があります.

 今回の東京2020大会での取組みは,世界的に注目されるイベントのサイバーセキュリティ確保に対して,官民が一丸となって対応する我が国では恐らく最初の事例になったと思います.今回の取組みを総覧することで,サイバー空間は,公共空間として皆で守る,育てていくという意識が広く共有されていくことにつながり,サイバーセキュリティ確保のための協調モデル,対話モデルが構築,普及していくことを期待しています.

 今回の特集が,皆様のサイバーセキュリティ対策の強化に際してのヒントになることを祈念して巻頭言とさせて頂きます.


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