特集 2-13 大規模スポーツイベントを支える業務用無線

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Vol.105 No.8 (2022/8) 目次へ

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2. 通信・無線・放送

特集 2-13

大規模スポーツイベントを支える業務用無線

Personal Mobile Radio: Supporting Massive Sports Event

石田泳志 國松 亮 小西寛仁 勝山 栄

石田泳志 國松 亮 小西寛仁 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジーサービス局

勝山 栄 日本電気株式会社都市インフラソリューション事業部門

ISHIDA Eiji, KUNIMATSU Makoto, KONISHI Hirohito, Nonmembers, Technology Services Bureau, The Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games, and KATSUYAMA Sakae, Nonmember, City Infrastructure Solution Division, NEC Corporation.

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.8別冊 pp.879-884 2022年8月

©電子情報通信学会2022

abstract

 オリンピック・パラリンピック大会では,大会関係者の即時音声通信手段として,業務用無線が整備・運用されてきた.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では,オリンピック・パラリンピック史上初となるPS-LTE方式を採用したType 1や,大会専用の周波数を利用するType 2など,用途や会場に応じて主に3種類の異なるタイプの業務用無線を整備・運用した.本稿では,他に類を見ない規模の業務用無線の整備・運用と,その前提となるサービスポリシーやフリートマップの策定過程を説明するとともに,PS-LTE方式の導入に至った経緯についても言及する.

キーワード:オリンピック,パラリンピック,業務用無線

1.業務用無線サービスの構築

 オリンピック・パラリンピックは他に類を見ない大規模スポーツイベントである.大会の運営は,機能ごとに約50に細分化された領域を専門で担当するスタッフがそれぞれ連携しながら行われる.

 業務用無線は,あらかじめグルーピングを行ったスタッフ宛に発信者からの音声を即時に伝達する機能を提供する携帯電話とは役割の異なる通信手段であり,スタッフの指揮命令の要となるツールである.円滑な大会運営には,円滑な通話環境を提供する業務用無線サービスが不可欠である.

 大会に向けた業務用無線サービスの整備は,2015年に過去の具体的な事例調査等から着手し,その後,各会場の地理的な配置や建物構造による電波伝搬特性や,オリンピック・パラリンピック大会独特のスタッフ配置や通話タイミングの特性を考慮して,上位のサービス要件を定義した.その上で,より少ないコストで実現可能な無線方式の選定,システム設計,実装・構築,テスト,無線機を配備する役職の選定,大会時の保守・運営の計画策定,テストイベントの実施,大会時のスタッフトレーニングなどのプロセスを経て大会に臨んだ.本章では,主要なポイントを紹介する.

 なお,オリンピック・パラリンピック大会では業務用無線のことをPersonal Mobile Radio(PMR)と呼ぶことを御紹介しておく.

1.1 サービス要件及びシステム方式選定

 過去のオリンピック・パラリンピック大会の運営実績や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)の計画から,通信エリア・呼量キャパシティ・音声遅延の許容範囲・秘匿性等の条件を抽出し,サービス要件として定義した.これらを満たすように設計・構築した堅ろう性の高い無線システムを,会場における主要業務(運営統括・審判等の競技運営・救護・放送・警備等)や業務領域を横断したリーダー間の連絡用途に提供する計画を策定した.

 提供した移動局の総台数は約1万4,500台であり,詳細には,実現方式により大別した以下に示すType 1からType 3の3種類のシステムを採用し,会場や用途によりそれぞれ最適な方式を割り当てた.複数種類の方式を組み合わせた主な理由は,各用途への適正及びコスト最小化である.


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