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3.情報システム・ディジタルメディア
競技結果配信におけるWebアクセシビリティ改善への取組み
Improvement of Web Content Accessibility for Competition Results Distribution
競技結果配信システムは,アスリート,放送事業者,観客,競技団体,プレス,スタッフなど,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の中で利用者が最も多いシステムである.シドニー2000オリンピック・パラリンピック競技大会では,豪州の視覚障がい者が,この競技結果配信システムを利用できないと当時の組織委員会を訴えた.この訴えがWebアクセシビリティに関する世界初の訴訟となる.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では,Webアクセシビリティを過去大会以上に重視し,Webアクセシビリティの確保が難しい競技結果配信システム開発において,専門家による試験と視覚障がい者によるユーザテストを行い,アクセシビリティガイドライン不適合の問題を100件以上抽出し,それらの改善を図った.本稿では,その取組みの概要や問題解決等について述べる.
キーワード:アクセシビリティ,競技結果,ユーザテスト,WCAG,JIS X 8341-3
テクノロジーの進展は,人々が欲しい情報を,いつでも,どこにいても,多様な方法で,収集できるようにしている.しかしながら,その利便性を,全ての人々が受けられているわけではない.特に障がいを持つ人々にとって,テクノロジーは,できなくて諦めていたことを可能にする力を有している.それにもかかわらず,テクノロジーサービスの中には,サービスを利用しやすくするアクセシビリティの確保が不十分であるために,障がいを持つ人々がサービスを利用できない状況がある.
アクセシビリティとは,「アクセスしやすい(利用しやすい)」という意味であり,サービスや製品などの利用しやすさ(利用できるか)を表す.Web発案者Tim Berners Lee氏は「Webの能力は,その普遍性にある.障がいの有無に関係なく,誰もが使えることが,その本質である.」と提唱した.Tim Berners Lee氏が創設したThe World Wide Web Consortium(W3C)では,「Webアクセシビリティとは,障がいを持つ人たちがWebサイトツール,及びテクノロジーを利用できるように設計及び開発されていること.Webアクセシビリティは,障がいのない人たちにもメリットがある.」のようにWebアクセシビリティを定義している(注1).アクセシビリティは,障がいを持つ人々にとって不可欠であり,様々な状況の全ての人にとって役立つものである.
東京2020組織委員会は,大会の基本コンセプトの一つに「多様性と調和」を挙げている(注2).このコンセプトに沿って,大会のテクノロジーサービスも,人種,肌の色,性別,性的指向,言語,宗教,政治,障がいの有無などにかかわらず,誰もが情報にアクセスできることを目指しアクセシビリティの改善が求められた.
こうした状況の中,東京2020組織委員会は,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)の中で利用者が最も多いシステムである競技結果配信システムのWebアクセシビリティの向上に取り組んだ.
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