特集 4-4 東京2020大会におけるロボティクス技術の活用

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Vol.105 No.8 (2022/8) 目次へ

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4.イノベーションプロジェクト・イノベーション施策

特集 4-4

東京2020大会におけるロボティクス技術の活用

Utilization of Robotics Technology in the Tokyo 2020 Games

中野智弘 戸田隆宏 森平智久 中山貴裕 稲垣裕滋 桑原 健

中野智弘 トヨタ自動車株式会社未来創生センター

戸田隆宏 森平智久 中山貴裕 稲垣裕滋 桑原 健 トヨタ自動車株式会社未来創生センター

NAKANO Tomohiro, TODA Takahiro, MORIDAIRA Tomohisa, NAKAYAMA Takahiro, INAGAKI Yuji, and KUWABARA Takeshi, Nonmembers, Frontier Research Center, TOYOTA Motor Corporation.

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.8別冊 pp.989-998 2022年8月

©電子情報通信学会2022

abstract

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では,大会ビジョンに掲げる「史上最もイノベーティブで,世界にポジティブな改革をもたらす大会」を実現するために様々なプロジェクトが実施された.その一環である“ロボティクス技術の活用”においてトヨタ自動車株式会社が実施した各種取組みについて紹介する.

キーワード:東京2020,自律移動,遠隔操縦,通信ネットワーク

1.は じ め に

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)ではロボットが様々な場面で人々に寄り添い,役に立つ姿を世界に発信すべく,組織委員会とトヨタ自動車,パナソニック,有識者などの間で東京2020ロボットプロジェクトWG(ロボットWG)を発足し,下記のような企画を立案した.本稿では各企画の技術概要について紹介する.

 (1)テレプレゼンスロボット(T-TR1/T-TR2)による聖火リレー企画

 (2)東京2020マスコットロボット(MR)による観戦支援企画

 (3)生活支援ロボット(HSR)による観戦支援企画

 (4)フィールド競技サポートロボット(FSR)による競技支援企画

1.1 T-TR1,T-TR2による聖火リレー企画

 T-TR1は,遠隔地にいる人をあたかも目の前にいるように見せてくれるロボットであり,遠隔地コミュニケーションを助けるカメラ,マイク,ディスプレイ,スピーカと自分の分身となって移動するためのモビリティの組合せから構成されており,会場に来られない方や大会に想いを寄せる方が仮想的に大会に参加し,コミュニケーションが取れる機会を提供することをコンセプトに掲げた.具体的な企画として,聖火リレーにおいて,現地では参加が困難なランナーでもあたかもその場にいるかのように聖火をつないでいくことを目指すこととした.

1.2 MRによる観戦支援企画

 ヒューマノイドロボット(T-HR3)開発で培った技術を活用することで,リアルな遠隔観戦を実現し,移動の制約に捉われない新しい大会の楽しみ方を提供することを基本コンセプトに掲げた.これは観戦を希望する都内の全公立・私立学校を対象に直接観戦する機会を提供する「学校連携観戦プログラム」が念頭にある.

 一方,重い障がいや病気などの移動制約により観戦プログラムが適用できない子供たちもいる.この子らも取りこぼすことなくロボティクス技術で大会の雰囲気を感じてもらうことを目指し,遠隔観戦機能に注力した初期型のMRを開発し2019年に公表した.

 その後,大会の1年延期判断による企画再検討の中で,コロナ禍で学校行事など多くの面で制約を受けている子供たちに大会を通じて少しでも笑顔になってもらうため,MRが貢献できることについて議論を深めた結果,ディジタル世界から飛び出した大会マスコットの“ミライトワ”と“ソメイティ”が発表時のCGさながらのサイズでリアルに存在し,子供たちと一緒にダンスを踊るなど,ユーザ体験の質を大幅に向上することを目指して,見た目の本物感と身体表現力の点で大幅なバージョンアップを実施した.MR企画としては最終的に以下の二つに絞り進めた.

 (1)選手村での静態展示

 (2)遠隔観戦+グリーティング企画

(会場⇔特別支援学校)

1.3 HSRによる観戦支援企画


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