小特集 3. 遭難者救助支援への応用

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ドローン活用の今

小特集 3.

遭難者救助支援への応用

Application to Rescue Support for Victims

藤井輝也 張 亮 江田紀一 米田 進 太田喜元 松浦一樹 前迫敬介

藤井輝也 正員:フェロー 東京工業大学工学院電気電子系

張 亮 太田喜元 松浦一樹 前迫敬介 正員 ソフトバンク株式会社基盤技術研究室

江田紀一 米田 進 ソフトバンク株式会社基盤技術研究室

Teruya FUJII, Fellow (School of Engineering, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8552 Japan), Liang ZHANG, Yoshichika OHTA, Kazuki MATSUURA, Keisuke MAESAKO, Members, Norikazu EDA, and Susumu YONEDA, Nonmembers (Technology Research Laboratory, Softbank Corp., Tokyo, 135-0064 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.9 pp.1107-1113 2022年9月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 雪,土砂,がれきの下に埋もれた遭難者の人命救助では一刻も早く遭難者の位置を特定することが重要である.遭難場所が携帯通信のサービスエリア内であれば携帯端末の位置情報(GPS情報)を捜索関係者に通報することが可能となるが,雪,土砂,がれきの下では地上基地局のサービスエリア外となり,GPS情報を捜索関係者に通報できない.そこで,ドローンに搭載した無線中継局によりサービスエリア外の空間を臨時にサービスエリア化し,GPS情報を取得する「ドローン無線中継システムによる遭難者位置特定支援システム」を提案した.本稿では,提案システムの概要を説明する.

キーワード:ドローン,無線中継,携帯端末,遭難者,位置特定,中継

1.ま え が き

 昨今,冬季登山において雪崩などによる遭難,大型台風による土砂崩れなどによる遭難が増加する傾向にあり,遭難者の捜索や救出を迅速に行うことが求められている.遭難者の救出や捜索を迅速に行うための基本は,遭難者の位置特定にある.

 筆者らは,冬山登山やスキー等による山岳での遭難事故で遭難者の迅速な救助を目的として,総務省北海道総合通信局から「携帯・スマホ等を活用した遭難者の位置特定に関する調査検討」の試験事務を受託した(1).従来,位置特定に関しては,例えば登山に関しては“ビーコン”等の携帯センサが実用化されている.しかし,専用の装置(送信機,携帯端末)が必要となる,電波の到達距離が短いため捜索範囲が狭い,等の課題があった.

 そこで,国民一人一人が所有し,GPS(Global Positioning System)受信機が標準的に搭載されている携帯・スマホ(以下スマホ)を利用した遭難者位置特定支援システムを提案した.GPS受信機は上空が開けた場所であれば,数m程度の距離誤差でその携帯端末の位置を特定することができる.しかし,山岳やスキー場等,遭難者の携帯端末が携帯基地局(以下,基地局)のサービスエリア外(圏外)の場所や,雪崩などで雪下に深く埋まり遭難者の携帯端末がサービスエリア外となった場合には,その携帯端末のGPS情報(以下,位置情報)を捜索側に転送できない.そこで,圏外である遭難場所を臨時に圏内にするため,ドローンに無線中継システムを搭載して基地局の電波を無線中継し,携帯・スマホとの通信を確保する「遭難者の位置特定システム」を提案し,その試作装置を用いた実証実験を北海道ニセコスキー場で行い,雪に埋もれた遭難者の位置特定に非常に有効であることを示した(1)

 ところで,当初開発した試作装置は単一の通信事業者対応であり,また携帯端末が雪崩などの雪下に埋まった状況を想定した位置特定システムであった.そのため,複数の通信事業者に対応でき,捜索が一層困難な土砂やがれきの下なども捜索対象とし得る汎用性のある「携帯・スマホ等を活用した遭難者の位置特定システム」が期待された.

 そこで,土砂やがれきの下への捜索もある程度期待できる複数事業者対応の「携帯・スマホを利用した遭難者位置特定システム」を新たに提案し,試作装置を開発した(2),(3)

 本稿では,試作開発した複数事業者対応の遭難者位置特定システムについて概説する.


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