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CMOSインバーティブルロジック[Ⅲ・完]
――ハードウェア実現と応用例――
CMOS Invertible Logic[Ⅲ・Finish]: Hardware Implementation and Applications
これまで,既存ハードウェア上で双方向計算を可能にするCMOSインバーティブルロジックの概要,及び設計手法とツールについて解説してきた.最終回である今回は,確率的演算の一種であるストカスティック演算に基づくハードウェア実装方法,及びCMOSインバーティブルロジックの応用例を説明するとともに,現状の課題についても触れていきたい.
2017年に提案されたインバーティブルロジックは,確率的デバイスモデルに基づき実現されていた.その後,確率的デバイスモデルを既存のハードウェア上で近似可能な手法として,2値演算に基づく手法(1)及びストカスティック演算に基づく手法が提案された.CMOSインバーティブルロジックはストカスティック演算に基づくハードウェア実現手法を指し,本章ではストカスティック演算について解説する.
ストカスティック演算は従来の2値演算のような決定論的手法とは異なり,確率的ビット列に基づき数値演算を行う手法である(2).これまで,誤り訂正符号の一種であるLDPC(Low-Density Parity Check)符号の復号器(3),(4),画像処理(5),ディジタルフィルタ(6),ハードウェアアクセラレータ(7),深層学習(8),脳型コンピューティング(9),(10)などに応用されてきた.
ストカスティック演算では,数値表現にはユニポーラ符号とバイポーラ符号が存在する.ユニポーラ符号では,実数は確率的ビット列を用いてと表現される.このとき,はビット列の期待値であり,実数の表現範囲は0から1の間である.バイポーラ符号では,実数は確率的ビット列を用いて,と表現され,実数の表現範囲は-1から1の間である.
ストカスティック演算では,乗算がANDやXNORなどのゲート一つで実現できることから,従来2値演算方式と比較してコンパクトなハードウェアが実現可能である.また,ストカスティック加算器は図1に示すマルチプレクサを用いることで実現される.2入力加算器の場合,確率的ビット列で表現された二つの信号が入力され,マルチプレクサによって二つの入力のうち,等確率でどちらか一方が出力として選択される.一方で入力数に応じて出力がスケーリングされるため,入力数が大きくなるに従って出力が0に近い数値となってしまうため,大きな演算誤差が課題である.
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