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この寄稿は2023年の日本国際賞(Japan Prize)の受賞に際して,およそ50年の研究を振り返り,思うところを若い人に向けたメッセージとしたい.私は1980年に大学院博士課程を修了した後,当時の日本電信電話公社(電電公社,現NTT)に入社し,茨城電気通信研究所を中心に21年勤務した.2001年に東北大学に移って今年で23年目になるが,広く捉えれば光通信を中心とするフォトニクスの研究開発に従事してきた.
図1は私のおよそ50年にわたる研究の中で発表してきた論文を研究テーマごとにまとめたものである.企業及び大学での研究活動を通じて私のグループでは約520編の論文と400編の国際会議発表をしてきている.論文だけを見ても,年平均10編を報告していることになるが,1編の報告には少なくとも4~5回の見直しをして投稿する.もちろん,実験や解析などの研究をし,国際会議や国内学会へ参加した上での話なので,いかに研究者の生活が忙しいか分かってもらいたい.
まず図1の全体を俯瞰して,2000年頃に論文数が少ない時期が3年ほどあるが,これは企業から大学に移ったときの新たな研究室の立ち上げによるものである.しかし2004年頃から大学での研究が立ち上がり,以前のように論文を出せるようになっていった.これは文部科学省からの2回の特別推進研究などの科研費の支援や総務省の様々なプロジェクトのおかげであり,ここに深く感謝の意を表する次第である.また,大学での研究テーマは多様性を示しており,新分野開拓の醍醐味があるように思われる.自分の研究を誰に強制されることもなく,自分の判断で進めることができるのも大学の良い所である.もちろん,全ての責任はいつもついてまわるが.
1980年電電公社入社時に私が配属されたのは茨城県の東海村にある研究所で,F400Mと呼ばれる単一モード光ファイバ伝送技術の実用化の真っ最中であった.私が任されたのは,図1の①OTDR,すなわち単一モード光ファイバの障害点探索装置(OTDR: Optical Time Domain Reflectometer)の実現であった.いわば光のパルス試験器であるが,光パルスの反射を見るのではなく,ガラスの誘電率の揺らぎに起因する後方レイリー散乱を信号として測定するものである(1).つまり,光パルスを単一モードファイバに入射すると-50dBぐらいのレベルで後方レイリー散乱が入射端に戻ってくるのであるが(2),ファイバが破断していれば,それ以降のファイバからの散乱は戻ってこない.この差分から障害点を検出する手法である.
レイリー散乱のレベルは非常に低いので,強い光パルスを入れたいのであるが,1980年当時は高出力の半導体レーザは望むべくもなかった.そこで,波長1.32µmのYAGレーザをNECのグループと一緒に開発し,FRLという現場試験を通じてOTDRとして技術資料を書き,やがて事業部で実用化された.論文も1981年の10月に発行された(3).固体レーザが通信用測定装置に使われたのはこれが初めてではないだろうか.
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