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そのとき研究の歴史が動いた
――画像認識の発展の歴史を振り返って――
編集チームリーダー 黒川茂莉
「そして皆さん,いよいよ今日のその時がやってまいります.」というナレーションでおなじみの方も多いと思うが,「その時歴史が動いた」というテレビ番組がある.本能寺の変や東京オリンピックなど,歴史上の転換点となった出来事を取り上げた番組である.2000~2008年度まで放送され,現在でもNHKアーカイブスや再放送などで見ることができる.
歴史上の出来事はその後への影響を中心に語られることが多く感じる.この点は技術の世界でも同じで,脚光を浴びた技術,いわゆる,1章岩村雅一准教授(大阪公立大学)の言葉を借りると「当たり」の研究テーマであればあるほど,その影響に目が行きがちである.
しかし,それら既存技術のフォロワーではなく,自ら「主役」となって新たな「当たり」の研究テーマを世に出したいと考えると,景色が違って見えると思う.「なぜその研究テーマに行きついたのか」「なぜうまく時流をつかめたのか」という,「そのとき」の前に目が行くようになると思う.
本小特集は,「その時歴史が動いた」の番組同様,歴史の「そのとき」,特にその前に着目した記事となっている.1章では,岩村雅一准教授(大阪公立大学)から「当たり」の研究テーマの生まれ方の例や研究活動のライフサイクルとの関連について考察が示される.2章以降は,画像認識分野で脚光を浴びた各技術について解説がある.2章では藤吉弘亘教授(中部大学)からScale-invariant Feature Transform(SIFT)特徴量に代表される画像の局所特徴量について,3章では牛久祥孝氏(オムロンサイニックエックス)から深層学習の深化の契機となったAlexNetについて,「そのとき」が解説される.4章では岡部孝弘教授(九州工業大学)からコンピュータグラフィックス(CG)とコンピュータビジョン(CV)の学際領域であるイメージベーストレンダリングについて,5章では石川 博教授(早稲田大学)から雑音除去等の画像処理で用いられるグラフカットについて,「そのとき」が解説される.6章では加藤博一教授(奈良先端科学技術大学院大学)から拡張現実(AR)において実世界の中に仮想物体を重畳表示するために用いられるARツールキットについて,前田英作教授(東京電機大学)からサポートベクトルマシン(SVM)に代表されるカーネル法について,「そのとき」が解説される.
本小特集全体を読んで頂くと,脚光を浴びた技術群の「そのとき」の背後には,着想に至る技術シーズ・ニーズ両面にわたる大局観,技術的な潮流,学会での人間関係やコミュニケーションなど,論文では余り語られることのない複合要因があったことが分かると思う.本小特集が読者の皆様が研究の「そのとき」を作る「主役」になるための一助となれば幸いである.
最後に,多忙な折,執筆に御尽力頂いた執筆者の皆様に感謝申し上げます.また,小特集編集チームの皆様には執筆候補者の提案・調整や校閲などに御協力頂きました.この場をお借りし,感謝申し上げます.
小特集編集チーム
黒川 茂莉 齊藤 史哲 高梨 昌樹 馬場崎康敬 宮﨑 太郎 八幡晃一郎 吉岡 隆宏
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