小特集 1. 共生社会実現に資する論文作成・発表アクセシビリティガイドライン

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Vol.106 No.12 (2023/12) 目次へ

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「共生社会」実現に資する「誰でも参加」の学会・研究会を共につくろう

小特集 1.

共生社会実現に資する論文作成・発表アクセシビリティガイドライン

Accessibility Guidelines for Papers and Presentations towards Realizing Inclusive Society

布川清彦 若月大輔 酒向慎司

布川清彦 正員 東京国際大学人間社会学部人間スポーツ学科

若月大輔 正員 筑波技術大学産業技術学部産業情報学科

酒向慎司 正員 名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻情報工学系プログラム

Kiyohiko NUNOKAWA, Member (School of Human and Social Sciences, Tokyo International University, Kawagoe-shi, 350-1198 Japan), Daisuke WAKATSUKI, Member (Faculty of Industrial Technology, Tsukuba University of Technology, Tsukuba-shi, 305-0005 Japan), and Shinji SAKO, Member (Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.12 pp.1108-1114 2023年12月

©電子情報通信学会2023

Abstract

 2023年度に論文作成・発表アクセシビリティガイドラインはver.4.0へ改定された.本稿では,改定の経緯を紹介した上で,改定の社会的背景として,障害者差別解消法によって,学会や研究会に障害者が参加する際の合理的配慮の提供が義務化されたこととガイドラインとの関係について解説する.

キーワード:論文作成・発表,アクセシビリティ,障害者差別解消法,福祉情報工学,共生社会

1.は じ め に

 世界では,障害者を含め多様性による人類の進化を進める動きが加速している.日本においても,共生社会を実現するための法整備が進められてきた.2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピックの開催もあいまって,外国からの訪問者,障害者や高齢者など,様々な心身の特性や考え方を持つ全ての人々が社会を作っていくために必要となる,心のバリアフリーについての啓発も行われた.これらの動きと並行して,本会ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)では,論文作成・発表アクセシビリティガイドライン(1)を作成し,改定を進めてきた.

 本稿では,2023年度に行った論文作成・発表アクセシビリティガイドラインver.4.0(以下,ガイドラインと呼ぶ)への改定の背景となるガイドラインの誕生から改定に至る経緯,障害者の権利に関する日本の法律である障害者差別解消法(2)について概説し,ガイドラインとの関係について述べる.

 電子情報通信学会の理念は,「電子情報通信および関連する分野の国際学会として,学術の発展,産業の興隆並びに人材の育成を促進することにより,健全なコミュニケーション社会の形成と豊かな地球環境の維持向上に貢献すること」である.健全なコミュニケーション社会には,様々な特性を持つ人材が参加,活躍できることが必要であり,参加を支えるためには個別のニーズを持つユーザの生活を豊かにする技術開発や支援方法が必要となる.一方で,こうした活動を支援するためには,技術が必要になるだけでなく費用が発生する場合も少なくない.これまで,障害者が本会の総会大会や研究会に参加する場合,参加に対応するための特別な予算は組まれていなかった.そのため,障害者が参加を希望した際は,該当する研究会や企画の担当者が何らかの形で,対応するために必要な予算を申請して準備や現場での対応をしていた.しかし,福祉情報工学研究専門委員会(WIT)を中心としたHCGからの働き掛けと社会的な状況に鑑み,2022年度からは本会が障害者への支援に関する予算をあらかじめ計上することになった.これは,本会での研究活動における共生社会の基盤を作ったことにほかならない.

 ガイドラインは,その基盤の上で,障害者が参加する際の具体的な指針を示している.しかし,同じ障害種別であっても一人一人は違う人間であり,同じ障害種別だからといってそのニーズが同じわけではない.ガイドラインは指針でしかなく,従うだけでバリア(注1)がなくなるわけでもない.参加する側と運営する側がお互いにとってより良い参加方法を作り上げるためには,何よりも健全なコミュニケーションとしての対話が必要なのである.


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