小特集 3. 視覚障害者の情報アクセスの状況と学会・研究会の参加

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Vol.106 No.12 (2023/12) 目次へ

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小特集 3.

視覚障害者の情報アクセスの状況と学会・研究会の参加

Information Access of the People with Visual Impairments and How They Participate in Academic Conferences

宮城愛美 池松塑太郎

宮城愛美 正員 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター

池松塑太郎 特定非営利活動法人ユニバーサルイベント協会

Manabi MIYAGI, Member (Research and Support Center on Higher Education for People with Disabilities, Tsukuba University of Technology, Tsukuba-shi, 305-0821 Japan) and Sakutaro IKEMATSU, Nonmember (NPO Universal Event Association, Tokyo, 108-0075 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.12 pp.1120-1124 2023年12月

©電子情報通信学会2023

Abstract

 視覚障害者の情報アクセスは,PCの普及以降,各種の支援技術とネットワークの普及によって劇的に改善した.しかしながら,いまなお,情報の発信者が視覚障害に対する理解と知識を持っていなければ,全ての情報にアクセスすることは難しい.学会や研究会におけるアクセシビリティの向上を目指して,本稿では,視覚障害について解説し,支援技術を用いた視覚障害者の情報アクセスの方法を紹介する.従来のアクセシビリティガイドラインと改定後の内容の違いに触れ,研究会における実例を示しながら視覚障害者の情報アクセスの方法と課題について述べる.

キーワード:論文作成・発表,アクセシビリティ,視覚障害,点字情報端末,スクリーンリーダ

1.視 覚 障 害

 視覚障害は,全盲,盲と呼ばれる「見えない」状態と,ロービジョン,弱視と呼ばれる「見えづらい」状態(図1)に大別されるが,視力や視野の状況は様々である.全盲には,視力がゼロの状態だけでなく,光の有無が分かる,手の動きくらいが判別できる,という状態も含まれるが,おおむね,文字を目で読むことが難しい状態を指している.一方,弱視は,目で周囲の状況や文字をある程度は確認できる状態であるが,個々の見え方によって移動スキル,読む方法や速度は大きく異なる.身体障害者手帳を所持する視覚障害者は我が国に31万2,000人(平成28年度)と推測されているが,米国の基準に基づくと約164万人が存在するという日本眼科医会の試算(2)もあり,視覚障害者手帳を保持していなくても,見え方のために生活に支障がある人は多くいると考えられる.

図1 ロービジョンの見え方の例(視覚障害リハビリテーション協会Webサイト(1)から転載)

図1 ロービジョンの見え方の例 (視覚障害リハビリテーション協会Webサイト(1)から転載)

 視覚障害者の困難には,主に移動と情報アクセスに関することがある.特に重度の視覚障害者が移動を実現するには,白杖などを用いた個人の歩行スキル,点字ブロック等のバリアフリー設備,同行援護などの福祉制度の利用が必要となる.同行援護はガイドヘルパーによる移動や外出時の読み書きに関する支援である.後述する情報アクセスの技術の向上により,独力で可能なことが以前よりも格段に増えたとは言え,そのような人的サービスの利用によって得られる移動時の安心感や視覚的情報の豊かさに驚く当事者も多い.

 次に情報アクセスについてであるが,視覚障害は情報障害とも言われるほど,その困難の多くを情報アクセスが占める.近年,アクセシビリティの考え方が広まってきたが,その対象者として最初にイメージされるのは視覚障害者であることも,視覚障害者の情報取得の困難を表している.紙媒体が主であった従来の情報取得では,点字や拡大印刷,ルーペ等が利用されてきたが,PCや各種IT機器の普及とともに視覚障害を補う技術が活用されるようになった.更に,スマートフォンやインターネット等の情報通信技術によって,情報アクセスの困難が解消される環境が整ってきたが,一方では,提供されるコンテンツがアクセシビリティに配慮して設計されなければ,情報取得の困難は解消されないままであることに留意する必要がある.


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