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「共生社会」実現に資する「誰でも参加」の学会・研究会を共につくろう
小特集 4.
学会・研究会におけるろう・難聴者の情報保障
――論文作成・発表アクセシビリティガイドラインの活用――
Information Support for the Deaf and Hard of Hearing at Conferences: Let’s Use the Accessibility Guidelines for Paper Preparation and Presentation
Abstract
情報保障とは,誰もが等しく情報を入手する環境を整えること,情報へのアクセスを保障することである.特に,ろう・難聴者の情報保障では,手話や文字などを利用して周囲の音情報を聞こえない人に伝えたり,逆に手話や文字などを利用して発せられた発言を音声に変えるなどして,その場への対等な参加を保障する必要がある.高等教育機関に在籍するろう・難聴者は,この20年近く増加傾向にあり,多岐にわたる専門分野での学びを深めている.より多くの学会や研究会での情報保障の取組みが実現されることで,ろう・難聴者も交えた研究についての議論が可能となる.本稿では,聴覚障害について概説し,ろう・難聴者の情報保障に用いられる代表的な手段を紹介する.更に,アクセシビリティガイドラインのうち,ろう・難聴者に対する配慮についてポイントを挙げ,学会や研究会における実例を紹介する.
キーワード:論文作成・発表,アクセシビリティ,聴覚障害,ろう・難聴者,情報保障,福祉情報工学
聴覚障害とは,医学的には音を感じる器官や経路に何らかの障害があり,周囲の音や話し言葉の聞きとりが難しい状態になる障害である.生まれつき,事故や病気,加齢など,聴覚障害の要因は様々である.聴覚障害には,伝音性難聴,感音性難聴,混合性難聴の3種類がある.伝音性難聴は,主に外耳から中耳に至るまでの障害である.耳栓を常にしているような状態になるため,音を聞き取りづらくなる特徴がある.感音性難聴は,主に内耳から聴神経に至るまでの障害である.音がひずんだり響いたりして聞こえる(脳が知覚する)ので,音の有無は分かるものの,話し言葉を聞き間違えるなど,聞き取りが困難になる特徴がある.混合性難聴は,伝音性難聴と感音性難聴の機能障害を併せ持つ難聴である.
平成28年度の厚生労働省の調査によれば,日本におけるろう・難聴者の数は34.1万人いると推計されている(1).これは,身体障害者手帳の所持者数であり,軽度の老人性難聴などは含まれていない.
ろう・難聴者の主な対話方法として,補聴器による聴力活用,読話(どくわ)や口話(こうわ),手話,筆談などがある.補聴器は,入力された音を大きくしたり,加工したりして聞きやすくする機能を持った機器である.使用者の聴覚の特性に合わせてフィッティングされ,残存聴力の活用が可能になる方法である(2).ただし,補聴器を通して聞いた音声が聴者(注1)と同じように明瞭に聞こえるとは限らない.このため,2.で述べるろう・難聴者のコミュニケーションを支援する方法を併用することが多い.
話し手の唇の動きを基に,補聴器を通して聞こえてくる音や話し手の表情,雰囲気,文脈などを総合的に捉え,ことばを読み取る方法を読話と呼び,読話で相手の話を理解し,表現には音声を使うコミュニケーションの方法を口話と呼ぶ(3).
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