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電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――
小特集 9.
法令・規定・標準等の更新について
――特に「倫理と法」の議論の経緯――
Updates of Laws, Regulations, Standards for “Ethics and Law”
Abstract
技術者及びそれを雇用する企業には「コンプライアンス」が求められる.コンプライアンスとしてもちろん法令遵守が求められるが,それだけではなく,厳密には法令ではない規範の遵守も求められる.というのも,法令の制定(または判例の確立)には時間がかかるため,多くの場合,これらは技術の後追いになるためである.とすると,倫理綱領には法令遵守の促進に加え,このギャップを埋める機能が期待されるのではないか.本稿はこういった観点から「倫理と法」との関係を整理し,今般の倫理綱領の改定案との関係を検討する.
キーワード:倫理と法,倫理綱領,プライバシー権,知的財産権
本稿では今般の倫理綱領(用語)の改定(倫理綱領及び行動指針(用語)の改定案を以下「倫理綱領改定案等」と言う)と法との関係を扱う.
筆者らが今般の改定にあたり抱いた疑問はなぜ倫理綱領が必要なのかということであった.すなわち,日本は法治国家で,国民を裁く権限は司法が独占し,そして,裁判官は法にのみ拘束される(参照,憲法76条).
もちろん,倫理と法の関係がこのように法優位で簡単に割り切れるものではないことも承知していた.例えば,外交の秘密文書を入手するために取材対象と不倫関係を持った事件について,最高裁は,これは「人格を蹂躙」するものだとして,取材行為が国家公務員法111条・109条の秘密漏示そそのかし罪に該当すると認めたが(1),学説は不倫を根拠に処罰するものだとして強く批判している(文献(2)p.252〔宍戸執筆〕).これは倫理が法化することへの拒否反応と言える.これに対して,倫理が法化した例もある.例えば,プライバシー権は明文の規定で認められていなかったが,裁判所が憲法に基づいて認めたものである(3).
では,どう考えるべきなのか.倫理綱領は必要なのか,だとしたらなぜなのか.実は,後述の本会の倫理綱領につながる研究会においても同様の問題提起がなされていた(文献(4)p.2).そこで,本稿では,従来の倫理綱領における議論を振り返り,今般の改定における筆者らの心持ちをお伝えする.
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