解説 ハイパデモクラシーを目指して――AIに基づくWeb議論支援システムとその社会実装――

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 解説 

ハイパデモクラシーを目指して

――AIに基づくWeb議論支援システムとその社会実装――

Towards Hyperdemocracy: An AI-powered Web Discussion System and Its Societal Implementation

伊藤孝行 松尾徳朗 大沼 進 白松 俊

伊藤孝行 正員 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻

松尾徳朗 東京都立産業技術大学院大学産業技術専攻

大沼 進 北海道大学文学院行動科学分野

白松 俊 名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻

Takayuki ITO, Member (Graduate School of Informatics, Kyoto University, Kyoto-shi, 606-8501 Japan), Tokuro MATSUO, Nonmember (School of Industrial Technology, Advanced Institute of Industrial Technology, Tokyo, 140-0011 Japan), Susumu OHNUMA, Nonmember (Graduate School of Humanities and Human Sciences, Hokkaido University, Sapporo-shi, 060-0810 Japan), and Shun SHIRAMATSU, Nonmember (School of Techno-Business Administration, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.3 pp.230-237 2023年3月

©電子情報通信学会2023

A bstract

 本稿では,ソフトウェアエージェントと人間が一緒に参加するソーシャルネットワークでの民主主義(ハイパデモクラシー)のための合意形成プラットホームを解説する.AI,スマホ,インターネットなどの急激な発展とCOVID-19による急激な環境の変化により,新しい社会システムの実現が一層現実味を帯びている.具体的には,民主主義の基盤としてのソーシャルネットワークの中に,複数のエージェントを常駐させ,人間の代理として働き,意思決定やインタラクションを仲介し,より良い合意形成や集団意思決定を支援する.特に,意見や好みを収集しながら,各参加者の感情にも寄り添った代理行動を行い,人間の主体的かつ納得感のある合意を効率良く得られるように支援する.すなわち,人間の主体感・納得感を醸造する寄り添う合意形成とエージェントの超効率的・超合理的な合意形成とのトレードオフを解決する.SNSでは,炎上,フェイクニュース,集団分極化,ゲリマンダリングなどの社会的諸問題が指摘されているが,エージェントが人間と協調しながら諸問題を解決する.

キーワード:ハイパデモクラシー,エージェント,合意形成,熟議民主主義

1.は じ め に

 本稿では,ソフトウェアエージェントと人間が一緒に参加するソーシャルネットワークでの民主主義(HyperDemocracy:ハイパ民主主義)のための合意形成プラットホームの実現(JST CREST「ハイパーデモクラシー:ソーシャルマルチエージェントに基づく大規模合意形成プラットフォームの実現」)について解説する.

 筆者らは1990年代からハイパデモクラシーによる未来をビジョンとして持ち,一貫して研究を続けている.AI,スマホ,インターネットなどの急激な発展により,民主主義を実現するための方法自体が変化しつつある.これまでの民主主義システム(例えば,代議員制)は,AI(深層学習),スマホ,インターネットがない時代に実現されたものであり,最新技術や理論を十分に生かしているとは言い難い.Thomas Malone(1)は,集合的な知性を発揮する集団(例えば民主主義,市場,企業などの階層組織,コミュニティ)をSupermindsと呼び,環境の変化に適応した集団や社会が発展すると予想している.近年の最も重要なIT技術による変化は,遠距離でも常時つながっているハイパコネクティビティにあり,現状の社会システムをいかに進化させていくかが重要な課題である.特に,AI技術(深層学習)の発展は,人間の代理としてのエージェントによるハイパデモクラシーの実現を可能にしている.更にCOVID-19の大流行による急激な環境の変化により,新しい社会システムの実現が一層現実味を帯びている.

 本稿では,2.で大規模合意形成支援システムの研究の背景を述べ,3.でエージェント技術に基づく大規模合意形成支援システムD-Agreeについて述べる.4.でハイパデモクラシープラットホームの構想について述べる.5.ではD-Agreeやハイパデモクラシープラットホームの応用について述べ,最後にまとめる.


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