解説 これからの「再現性問題」の話をしよう

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 解説 

これからの「再現性問題」の話をしよう

Reproducibility: What’s the Right Research to Do?

植田航平 益田佳卓 佐々木恭志郎 山田祐樹

植田航平 益田佳卓 九州大学大学院人間環境学府行動システム専攻

佐々木恭志郎 関西大学総合情報学部総合情報学科

山田祐樹 九州大学基幹教育院自然科学実験系部門

Kohei UEDA, Yoshitaka MASUDA, Nonmembers (Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University, Fukuoka-shi, 819-0395 Japan), Kyoshiro SASAKI, Nonmember (Faculty of Informatics, Kansai University, Takatsuki-shi, 569-1095 Japan), and Yuki YAMADA, Nonmember (Faculty of Arts and Science, Kyushu University, Fukuoka-shi, 819-0395 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.4 pp.321-325 2023年4月

©電子情報通信学会2023

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 心理学領域ではその知見に再現されないものが数多く存在することが指摘されてきた.本稿では,この課題に対して心理学コミュニティの内部で議論されてきた話題や対策,オープンサイエンスの潮流を概観し,特に統計的手法に関する話題を中心に議論する.再現性問題は,心理学にとどまらず,人間を研究や測定の対象とするあらゆる分野に関わる話題であると言える.本稿は,中心的な読者である工学や情報学の専門家の研究遂行に有用な情報を提供し,将来,心理学者とこれらの領域の研究者とが協同して学術を盛り上げることを目指す.

キーワード:再現性問題,問題のある研究実践,帰無仮説検定,事前登録,オープンサイエンス

1.再 現 性 問 題

 研究の成果が再現されることは,科学の営みにおいて重要な要件の一つであろう(1).「巨人の肩」を築き上げていくためには,科学者コミュニティによる頑健な知見の蓄積が必要不可欠であり,分野を問わず共通する課題である.

 しかし,近年,様々な分野において再現性に疑義が呈されており(e.g., 文献(2)),心理学領域においても再現されない知見が数多く存在することが指摘されてきた(1),(3).心理学コミュニティにおいてこの事実に注目が集まり始めた2010年代前半から続く,およそ10年の議論はいまだ途上ではあるものの(4),これまでに「信頼性改革」(5)と呼ばれる方法論等の抜本的な見直しや改善策の導入が数多くなされてきた.

 本誌の主な読者層である工学系や情報系の研究者・開発者にとっては,心理学はそこまでなじみの深い分野ではないかもしれない.しかし,技術やサービス,プロダクトを実際に使用するユーザ,すなわち人間の認知や印象などに関する知見は工学的研究や開発にも生きると考えられる.また何より,開発した技術や製品の効果を検証する際には人間を相手に行動実験を行う必要があり,そのためには方法の様々な点に配慮することが求められる.心理学は,まさに行動実験やアンケート調査などの研究手法を十八番とする学問である.再現性問題への対応を含め,長い時間をかけて科学的であることを追求する中で磨かれてきた行動計測技術や実験法は,ユーザの反応や声を重視する工学や情報学等の領域における研究実践の際にも大いに参考になると考えられる.そこで本稿は,心理学領域における再現性問題やその対策を概説し,工学や情報学の研究を行う上でも有用だと考えられる情報を提供することを目指す.


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