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海中の音響通信を妨げる要因は,二重選択性フェージングとインパルス性雑音などの環境雑音である.本稿では,フェージング補償に用いられる適応等化器のインパルス性雑音耐性を向上させる手法を検討する.インパルス性雑音が重畳する区間において適応等化器の誤調整が生じ,復調性能が低下する.本課題に対し,時間軸に関する等化方向のダイバーシチを活用してインパルス性雑音による復調性能低下を抑制するシンボル選択型双方向等化を提案する.計算機シミュレーションを用いてBER(Bit Error Rate)特性を評価し,インパルス性雑音環境における本手法の有効性を示す.
キーワード:海中音響通信,インパルス性雑音,シンボル選択型双方向等化
近年,設備点検,港湾工事,養殖場監視など様々な海洋産業分野において,ROV(Remotely Operated Vehicle)をはじめとする水中機器の活用が検討されている(1)~(4).洋上から海中の機器を遠隔操作する場合,海中の映像や位置情報をリアルタイムに確認する必要があるため,ほとんどの場合,海中の機器と海上の制御装置を通信ケーブルで接続して運用する.映像伝送に要求されるMbit/s(Megabits per seconds)級の通信速度に加え,面的にエリア形成可能な海中無線通信システムが実現できれば,機器を無線化し,作業の自由度を飛躍的に向上させることができる.そこで,水の濁りの影響を受けにくく,到達範囲の広い音波に着目し,大容量化技術の研究開発に取り組んでいる.
音響通信を阻害する主な要因は,マルチパス波と環境雑音である.マルチパス波は,海面,海底,構造物からの反射波等によって生じる.海中を伝搬する音波の伝搬速度はおよそ1,500m/sであるため,僅か数メートルの経路差でミリ秒オーダの遅延スプレッドが生じる.同様の理由から,ドップラースプレッドも電波に比較して大きい.遅延スプレッドとドップラースプレッドの積で定義されるスプレッドファクタは,陸上無線通信に比べてけた違いに大きく(5),(6),フェージングの変動周期が短いため,時変動性を十分に考慮したシステム設計が必要である.時変動する伝送路ひずみを補償する手法として,マルチチャネル判定帰還形等化器(M-DFE: Multi-channel Decision Feedback Equalizer)などの適応等化が広く用いられる(7).筆者らは,M-DFEのフィードフォワードフィルタのタップ長を遅延スプレッドよりも意図的に短く設定し,フィルタ係数の最適化を行うことで,遅延波に対する空間領域のヌル形成と,残留パスの時間領域等化を同時に行う時空間等化器を提案している(5).空間領域のヌル形成によって一部の遅延波を抑圧し,時間領域で等化するマルチパスのスプレッドを短縮することで,フェージング変動に追従が困難な環境においてもひずみ補償を可能としている.
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